「……ちょっと、汚しちゃって。あはは……」


 前までは、学校で私に話しかけられること自体うっとうしそうにしていたというのに、最近ではまれに坂部くんの方から話しかけてくることもあった。

 けど、このタイミングで話しかけてこなくてもいいのに……っ!


 本当に明美の言う通り、坂部くんは変わってきているのかもしれない。

 それに引き換え私は、今日だってミートボールをベストに落とすというミスをしでかして、何も変わってない。


「そうか。汚れ、落ちそうか?」

「あ、うん。ちょっと水で揉んだらきれいになってきたよ。少しせっけんつけて洗ったら大丈夫だと思う。あとは帰るまで窓辺で干させてもらうつもり」

「……ならいいが」


 私の隣に立つ坂部くんは、手を洗うでもなく、窓の外を見ているようだ。

 もしかして、私が終わるまでここにいるつもりなのだろうか。


 イマイチ坂部くんの考えていることはわからない。

 けど、坂部くんが隣に立ったことで、私はずっと胸の内で考えていたことを口にしていた。


「……由梨ちゃん、あれから何も言ってこないけど、でも寄り道カフェに毎日のように来てるってことは、やっぱり悩んでるんだよね、お母さんの再婚のこと」

「そりゃそうだろ。由梨にとっては、唯一素の姿でいられる空間を脅かされてるんだ。逃げ出したくなるのも当然だろう」

「そうだよね。だって人間同士でさえ、他人がいきなり家族になるって言われたら戸惑うもん」