「うわっ、派手にやったねー」

 あわてふためく私のところに、明美はティッシュを持ってこちらに来てくれる。


「ありがとう……」

 丁寧に明美は私のベストを拭いてくれるが、当然ながらティッシュで簡単に落ちてくれそうにない。


「……一度洗ってくるしかないね。ま、上着じゃなくてよかったじゃん。こういうのは早いうちに落としとく方がいいから、洗ってきなよ」

「う、うん……。じゃあ行ってくるね。続き、先に食べてていいよ」


 明美の言う通り、これが制服の上着じゃなくてよかった。

 ちょうどさっきの授業中、体育のあとの授業だったから暑くて上着を脱いでそのままになっていたんだ。


 一番近い手洗い場に向かうと、私はベストを脱いで、汚れてしまった部分を軽くもみ洗いする。

 ベストを脱いだことで上半身は長袖のブラウスのみになってしまったことと、冷たい水に触れたことで、一気にさっきまで感じていなかった寒さが戻ってきて、思わずぶるりと身を震わせる。


「……綾乃?」

「さ、坂部くん……!」


 思わず聞こえた低い声に顔を上げると、先生に呼ばれて教室を出て行っていたという坂部くんの姿があった。

 思わずドキンとしてしまったのは、さっき明美に坂部くんのことでからかわれたからなのだろう。


「洗濯か?」