「いいのいいの。綾乃も素直になりなよ。坂部くん、良いと思うよ、イケメンだし」

「だから、そうじゃなくて……。それに良いって何? この前まで明美は坂部くんのこと、顔は良くてもダメだって」

「んー、そんなときもあったね。でも最近、何か坂部変わったじゃん。クールのなのは相変わらずだけど、見えない壁のようなものが少し薄くなったような感じがするんだよね」


 確かに明美の言う通り、坂部くんの雰囲気は少し変わった。

 私が無理に引っ張り出さなくても、クラスメイトと話しているところを目にするようになった。

 人間に混ざって暮らしながら、以前の坂部くんは、どこか人付き合いを避けているような感じだった。

 ミーコさんが言うには、それは人間に対してだけじゃなかったらしい。

 今でもめちゃくちゃフレンドリーになったというわけではないが、少なくとも来るもの全てを否応なしに突っぱねてるような感じはなくなった。

 もし坂部くんの中の何かが変わったのなら私は嬉しい。


「ちょっと、何ニヤニヤてるの?」

「え、ニヤニヤなんてしてた?」


 もしかして、嬉しいという気持ちが顔に出てしまっていたのだろうか。

 思わずギョッと身体を硬直させてしまった瞬間、私のお腹の辺りを何かが転がり落ちる感覚が走る。


「ああーーっ!」

 なんと見事に照り焼きソースで味付けされたミートボールが私の制服のベストの上を転がっていた。

 不幸中の幸い、ベストの腰のゴムのところでミートボールは止まっていたために、制服のスカートが汚れることはなかったが、ベストにミートボールの足跡がものの見事についている。