だからと言って、本当に考えていた由梨ちゃんの話をするわけにはいかない。

 何て返そうと悩んでいたところで、私は坂部くんのことを考えていたことにされてしまったようで、明美はにんまりと得意気に笑った。

 何だか、してやったりな感じだ。


「あー、お腹すいた。早くお昼食べよー」


 明美は私の机にお弁当を置くと、前の席の椅子に腰かける。

 私も椅子に腰かけると、机の上にお弁当を広げる。

 バイトのことがバレてから根掘り葉掘り聞かれているうちに、私が坂部くんのことを好きになりかけてるんじゃないかと明美には言われた。それからというもの、明美はいつもこんな感じだ。


 そりゃあ人の恋バナを聞くのは楽しいけどさ、何でそんなに私と坂部くんのことをくっつけたがるかな。

 明美がそんなだから、私だって変に坂部くんのこと意識しちゃうじゃない……。


 実際、気になってると言われれば嘘じゃないから、困ったものだ。

 さりげなく横目で坂部くんの席の方を見てみると、坂部くんは教室では食べてないみたいで、坂部くんの席はもぬけの殻だった。


「そういえば坂部、さっき先生に呼ばれて教室出てったよ」

「……え」


 まさか私が坂部くんの席を見てたのに気づいてたの……?

 明美の方を見ると、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべてる。


「ははっ。綾乃のこと怒らせたかもと思って心配したけど、本当に坂部のこと気にしてただなんて」

「こ、これは! 明美が坂部くんの話をするから、つい……」