ノートに走らせていた鉛筆の動きを止めて私を見上げる由梨ちゃんは、明らかに不服そうに口を尖らせる。


「大丈夫だよ。それにまだ宿題終わってないし」

「そうかもしれないけど、外暗くなってきたよ? おうちの人、心配しない?」

「…………」


 これは効いたのか、由梨ちゃんは少し困ったようにノートに視線を落とす。

 けれど、何を言うでもなく微動だにしなくなってしまった由梨ちゃんに対して、もしかして不味いことを言ってしまったんじゃないかという気持ちにさせられる。

 不安になってそばに屈むと、頬を伝ってノートに涙が一粒こぼれ落ちるのが見えた。


「由梨ちゃん……!? ごめんなさい、私、そんなつもりじゃ……っ」


 決して泣かせるつもりじゃなかったし、そんな説教臭く言った覚えもない。

 そのとき、あたふたとする私の耳に小さく由梨ちゃんの声が届いた。


「…………やだ」

「……え?」

「おうち、帰りたくない」


 由梨ちゃんは、シクシクと悲しそうに涙を流しはじめる。

 そういえば寄り道カフェに来る前に私とぶつかったとき、由梨ちゃんは泣いていた。

 そのときの姿が、今の由梨ちゃんの姿に重なって見えた。


「由梨ちゃん。おうちに帰りたくないって、どうして? お母さんと喧嘩したの?」

 由梨ちゃんは私の言葉に首を横に振る。


「喧嘩はしてない、けど……。あそこにはもう、私の居場所なんてないもん」