小銭を片手につかんで慌てて店を出たが、私はそこで自分の足に思わず急ブレーキをかけた。


「京子さん……!」

「はいはい、待ってたわよ」


 お店のドアを出たところで、どうやら京子さんは私のことを待ち構えていたようだ。

 もしかしなくても、お釣りを受け取らずに出たのは、わざとだったようだ。


「……どうしたんですか?」


 こんなこと、初めてだ。

 すると、京子さんは人さし指を動かして、私にこっちに来いと合図してくる。

 数歩、京子さんの方へ近づくと、京子さんは小声で口を開いた。


「……人間と犬のあやかしの子どもよ」

「……え?」

「ほら、さっきの由梨ちゃんって子。人間でもあやかしでもないって言ってたでしょ? 人間に限りなく近い見た目に、犬の耳と尻尾。彼女、人間と犬のあやかしの間にうまれた子どもよ」

「人間と、犬のあやかし……?」

 つまり、人間でもあやかしでもないって言った理由は、由梨ちゃんのご両親があやかし同士ではないからだろうか。

 そもそも、人間とあやかしの間の子どもというのも衝撃的だった。


「もしかして京子さん、私が由梨ちゃんの説明を理解できてないのに気づいて……!」

「まぁね。だってギンから人間とあやかしの子について何も説明されてないのは、綾乃を見てたら一目瞭然だったし」


 京子さんは得意気に私にウインクして見せる。