確かに私はあやかしではない。

 けれど、まるで私がこれ以上のことを知ることを拒絶されているように思えて、少し近づいたように感じていた心の距離さえ大きく遠ざけられたように感じてしまう。


「何よ、感じ悪いわね。綾乃、気にしなくていいからね」


 ……京子さんといい、明美といい、そんなに私は坂部くんに恋しているように見えるのだろうか。

 思わず再び考え込んでしまいそうになったところ、

「ほら、もう京子さんの相手はいいから、綾乃は厨房の方手伝ってくれる?」

 コツンと軽く坂部くんの拳が私の頭にぶつけられて、思わず心臓があり得ないくらいにとび跳ねる。


「あ、っははははいっ!」

 坂部くんは訝しげな表情を浮かべ、一方で京子さんは頬を赤く染める私を見ておかしげに笑っていた。


 ……わああ、恥ずかしいよ。

 そのときだった。変な緊張感に包まれた店内に、カランコロンとドアベルの音がした。

 見ると、ローズ色のランドセルを背負った女の子が、肩まである髪を揺らしてお店の中に入ってくる。


「客か。綾乃、厨房はいいからあの女子の接客よろしく」

「はい」

 女の子が入ってきたことで、坂部くんは小さく息をついて厨房に戻っていく。


「いらっしゃいま……」

「ミーコさん!」