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「あら、綾乃。元気?」

「もちろん、元気モリモリですよ」


 開店時間を迎えて一番に入ってきたのは、お決まりのように京子さんだった。

 以前からダントツで来店回数の多いお客様だったみたいだが、ここ最近はほぼ毎日来て新しい彼との恋の進展具合を逐一報告してくれる。


 京子さんいわく、ここで彼へのアタックを頑張るためのエネルギーチャージをしているんだとか。

 少なくとも京子さんは、お店の考えどおりこの場を“寄り道”的な使い方をしているように思う。


「そう? 素敵な笑顔だけど、何だかちょっと悩んでることがあるんじゃない?」

「そんなことないですよ」

「遠慮しなくていいのよ。あたしたちの仲じゃない。わかったわ、綾乃のこの反応は、きっと恋のお悩みだわ」

「ゲホッゲホッ」


 断じて接客中の私が何かを飲んでいたわけではない。けれど京子さんに楽しげに言われて、どういうわけか自分の唾液で派手にむせてしまった。


「ちょっと大丈夫? 何にむせたのよ。あたしのアイスミルクティー飲む?」

「いえ、大丈夫です。すみませ……ゲホッ」

「でもつまりは図星ってことね。もしかして、やっぱりギン……?」

 学校でも散々同じことを明美にやられたこともあり、またかと思わず肩を落としてしまいそうになる。


「まさか。そんなわけないじゃないですか」

「えー。お似合いだと思うんだけどなぁ~。ねぇ、ミーコちゃん」

「ええ。綾乃さんが来られてから、ギンさんも日に日に生き生きとされていますよ」