肩で切り揃えられた黒髪で顔が隠れてしまっていてはっきり見えないが、何となく泣いているように見える。

 とうしよう。うなずいたわりに立ち上がらないし、今のはずみで女の子はどこかを痛めてしまったのだろうか。


「あの、よかったら……」

 遠慮してるだけなのかもしれないと思い、私が女の子の方に手を伸ばすと、それはパシンと払いのけらてしまった。


「……え?」

 あまりにも予想外の反応に、私は一瞬呆気に取られる。

 そうしているうちに、女の子は自分の力で立ち上がる。


 私を見るなり少し気まずそうに目をそらす女の子は、十歳前後くらいだろうか。子犬を連想させるような丸い黒目がちの瞳は、やっぱり涙で濡れているようだ。


 さっきの弾みで地面に肘をついてしまったようで、擦りむけている。


「あ、肘……っ」

 女の子は私の声も肘の怪我も気に止めることなく、私の横をすり抜けて走っていってしまった。


 ……行っちゃった。

 泣いてたけど、私とぶつかってしりもちをついたことによるものなのか、それ以外のことによるものなのか。

 もうすでにそこにいない女の子のことを思って、また私の中のモヤモヤがひとつ追加されたのだった。