人間の姿の坂部くんがイケメンなのは周知の事実で知っていたが、あやかしの姿もイケメンだ。

 さらにクールな雰囲気を醸し出しているのに、ぴょこんと頭から漆黒の三角の耳がはえている姿はとても愛らしく見えるし、漆黒の腰まである長い髪も、私の髪よりも手入れが行き届いているのかサラサラと綺麗だ。

 何より、もふもふの大きな漆黒の尻尾は、つい触りたくなるような衝動を覚える。

 あやかしというだけあって、坂部くんの元の姿は、人間に近いようで遠い見た目をしている。

 最初こそ驚いたものの、今ではそんな坂部くんの姿さえ可愛いと感じたり、人間にはない包容力のようなものを感じているのも事実だった。


 何より、どちらの坂部くんもクールに見せかけて不意討ちで優しいんだ。

 これはもう、ドキドキするなって方が私には難しい……。

 ……って、私は一体何を考えているんだ。
 これじゃあ明美の言ったように、坂部くんのことを好きになりかけてるみたいじゃないか。


 これも、明美が変なことを言うからだ。せめてバイト中は平常心を心掛けないと!

 頭にモヤモヤと渦を巻くものを、何とか頭を振って追い払う。


「う……っ」

 そのとき、ドンッと私のみぞおち辺りに強い衝撃を受けた。


「……いったぁ」

 弾みでしりもちをついて私の目の前に座り込んだのは、黄色い通学帽子を被ってローズ色のランドセルを背負った女の子だった。


「ごめんなさい。立てる?」

 私が女の子のそばにかがむと、女の子はコクンと小さくうなずいた。