坂部くんは、以前まで意図的に人間との接触を最低限に留めていた。明美の言うとおり、坂部くんが好んで一匹狼でいたのは確かだろう。

 けれど彼の中に心境の変化があったのか、特に今はあからさまに人間との接触を避けているようには見えない。

 少しうっとうしそうにしている様子はあるものの、坂部くんの表情は少し照れているようにも見えて、何だかんだで人間と関わることができて嬉しいんじゃないかとさえ思える。


「ちょっと、綾乃。何、見とれてんのよ」

「……えっ? 何にも見とれてないって」

「嘘だぁ。じぃ~って、坂部の方見てたじゃない」

「それは、明美が坂部くんの話題を出したから、つい……」

「綾乃さ、自分では気づいてないみたいだけど、最近しょっちゅう坂部のこと見てるよ」

「そんなことは……っ」


 ない、とは思うけど、実際どうだろう。

 気づいたら坂部くんのことを考えていることは多いし、視界に入れていることは多いかもしれない。

 でもそれは、やっぱりバイトが一緒だからだ。

 バイトのことを考えていたら自然と坂部くんのことも考えてしまうし、坂部くんが人との関わりを最小限にしようとしているのを間近で見て、私自身感化されてしまったのも大きいだろう。

 けれど、時折見せる優しさや温かい雰囲気にきゅんとなってしまうときがあるのも事実だ。

 はっきりと“ない”と言い切ることのできない私を見て、明美はニヤリと意地悪な笑みを浮かべる。


「もしかしなくても、綾乃、坂部のこと好きになりかけてるんじゃない?」

「……え?」

 ドキン、と強く胸が音を立てた。