「で、実際どうなのよ?」

 まるでリポーターがインタビューをする人にマイクを向けるように、明美は私の口元に彼女の拳をもってくる。


「どうもこうもないって……。何回も説明させてもらったけど、たまたまバイト先が一緒になったんだって」


 先日、私がバイトをしていること、且つ、そのバイト先が坂部くんと一緒であることがバレたときから、明美に質問攻めにされてしまうことは、ある程度覚悟していた。

 私が明美に寄り道カフェでバイトを始めたことを黙っていたことが諸悪の根元だから、仕方ないだろう。

 しかし、根掘り葉掘り似たようなことを何度も質問され続けては、さすがに嫌気がさしてくる。


「えー。じゃあ最近、綾乃がやけに坂部に絡んでたのは、バイトが一緒だったからなの?」

「だからそうだって言ってるじゃん。坂部くんって、あまりにもクラスメイトと距離を置いてるからさ」

「でもバイトが一緒だからって、そこまでする? 坂部が好きで一人でいるだけかもしれないじゃん。実際今まで一匹狼を貫いていたんだし、綾乃だってこの前まで全く気にも留めてなかったじゃん」


 一匹狼どころか、実際に坂部くんは漆黒の狼のあやかしだ。

 そんなこと、何も知らない明美には口が割けても言えないが。


 今、話題にされている坂部くんは、教室の隅にある彼の席で、数人の男子に絡まれている。

 文化祭でデコレーション担当の男子二人に坂部くんが指導したことがきっかけなのだろう。文化祭以来、坂部くんは二人によく声をかけられ、会話をしているところを見ることが増えた。

 そしてそれに感化されてなのか、坂部くんに話しかけるクラスメイトが明らかに増えたのだ。