そして明美の瞳は、私が一旦店の中に戻って厨房の二人に団体客が来られたことを告げたあと、本日のケーキを人数分ワゴンに乗せて持って出てきた坂部くんの姿を見たことで、余計に私を怪しむようなものへと変わった。

 明美の視線を今は努めて意識しないようにして、私は浜崎さんの前へ本日のケーキをお出しする。


 本日のケーキは、ミル・クレープ。

 何層にも重なる薄いクレープ生地の間に、ミルククリームの詰まったものだ。

 それを口にした浜崎さんは、お冷やのおかわりを持ってきた私に満足そうに笑った。


「美味しいです。ここには何度か来ましたが、今までで一番美味しいです」


 それもそうだろう。

 楽しいときはより最上級の幸せを、つらいときは癒しを、甘いものは私たちに与えてくれる。

 悩んで悩んで悩み抜いた先に自分のこたえを見つけた浜崎さんにとって、今日のミル・クレープは格別だろう。


 何層にも重なるのクレープの様子は、浜崎さんのトロンボーンや吹奏楽に対する思い、吹奏楽部みんなの思い、つらい思い出、楽しかった思い出、その時々のいろいろな気持ちを形にしたもののように見えた。