「あ、綾乃? こんなところで何してるの?」

 だって、そこにいたのは、私がバイトを始めたことを言いそびれている親友の明美だったのだから。

 明美を先頭にして何人もの女子と二人の男子がいる。

 もしかして先ほど電話をしてきた団体客って、明美たちのことだったのだろうか。


「立石先輩……っ」


 そのとき、明美の後ろから浜崎さんがこちらに出てきた。

 今まで悲しげな表情しか見たことなかった浜崎さんが嘘のように、楽しげな笑みを見せている。

 お転婆な印象を受ける今の彼女の姿こそ、きっと本当の浜崎さんの素の姿なのだろう。


「私、吹奏楽部に戻ることにしました。ソロはやっぱり吹ける気がしなくて外してもらうことにしましたが、後悔したくなかったので」

「それなら良かった」

「はい! やっぱり私は何があってもトロンボーンをみんなと吹きたいみたいです。みんなもこんな私を温かく受け入れてくれて、私、一人で塞ぎ込みすぎていたみたいです」

 浜崎さんは、少し照れ臭そうに笑う。


「今日は私の復帰のお祝いにと部長が……。あんな醜態をさらしたあとにここに訪れるのは少し恥ずかしいですが、立石先輩にはお世話になったので……」

「浜崎さんの気持ちを動かしたセンパイとやらに、お礼を言うつもりでここに連れてきてもらったけど、まさかそのセンパイが綾乃だったとはね。あんた、いつからバイトしてたのよ」

「あは、は……。隠すつもりはなかったんだけど、何だか言い出せなくて……」

「ふぅん。また、いろいろ聞かせてもらうから」


 じっと明美が私を見る瞳から、私は後日、質問攻めに合うことがほぼ確定した。