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「その傷」
彼女の左内腿を指さし言う。
「偶然とは思えない」
彼女が落ちてくるその瞬間、僕は確かにこの目で見た。細長い線状の傷跡が、そこにあることを。
瓜二つの人物が、全く同じところに、同じ傷跡があるなんて出来過ぎている。そんな奇跡、ある訳がない。
もう一度、僕は尋ねる。
「椎名、なんだろ?」
少しの沈黙。
それを破ったのは、彼女の方だった。
「あーあ……バレちゃった」
その顔は、傷付いているように見えた。
「何で」
「場所、変えよう。案内するから。七緒日菜子の家に」
僕は無言で頷いた。
世界が再び反転する。
一周まわった世界は、歪に捻じ曲がっていた。
移動中、椎名は少しずつ、自分達の身に起きた出来事を話し始めた。
ぽつり、ぽつりと本当にゆっくりだったが、その内容は充分に理解出来た。
それは、僕の知らない彼女と、僕がよく知っている彼女の、不思議なおとぎ話のような物語だった。