4話
赤い傘はそれからどこに行ったのでしょうか。
傘は、駅から最寄りの警察署に送られました。
数日後、ある日曜日のお昼頃に警察署に現れたのは、七十代の女性。孫の傘を探して、方々の警察署を回ってきたと彼女は窓口で述べました。
そして預かっていた傘を一目見ると、この傘に間違いないと言いました。
老女が警察署から外に出ると、朝方は晴れていた空が、今は薄い雲で覆われ、小雨がしとしと降ってきました。
彼女はふと思いついて、手元の赤い傘を差すと、ゆっくりとした足取りで灰色の街中を歩んでいきました。
川べりにある、見晴らしの良い公園までくると、彼女はそこで傘を差したまま、しばらく川の流れを眺めていました。すると川下の方からこちらに向かって、黒い傘を差した一人の老人が歩いてきます。彼は彼女を見とめると、おもむろに帽子を脱いであいさつし、二人は並んで公園を眺めました。
「赤い傘は、小さい頃よく差していましたね」ようやく老人が口を開くと、老女は、少女の頃のように、ほんの少し頬を赤らめ視線を下に落としました。
老人が「公園の場所は昔のままですけれど、風景はだいぶ変わりました」というと
「幼い頃、よく遊んだ遊具はもう残っていませんわ」老女は答えました。
しばらくすると、老人は老女に
「ご主人を亡くされたそうですね。風の便りに聞きましたが」
「去年のことです。あなたは」
「私も妻を二年前に亡くしました」
「お互い、色々なことがあったようですね」
「はい」
赤い傘はそれからどこに行ったのでしょうか。
傘は、駅から最寄りの警察署に送られました。
数日後、ある日曜日のお昼頃に警察署に現れたのは、七十代の女性。孫の傘を探して、方々の警察署を回ってきたと彼女は窓口で述べました。
そして預かっていた傘を一目見ると、この傘に間違いないと言いました。
老女が警察署から外に出ると、朝方は晴れていた空が、今は薄い雲で覆われ、小雨がしとしと降ってきました。
彼女はふと思いついて、手元の赤い傘を差すと、ゆっくりとした足取りで灰色の街中を歩んでいきました。
川べりにある、見晴らしの良い公園までくると、彼女はそこで傘を差したまま、しばらく川の流れを眺めていました。すると川下の方からこちらに向かって、黒い傘を差した一人の老人が歩いてきます。彼は彼女を見とめると、おもむろに帽子を脱いであいさつし、二人は並んで公園を眺めました。
「赤い傘は、小さい頃よく差していましたね」ようやく老人が口を開くと、老女は、少女の頃のように、ほんの少し頬を赤らめ視線を下に落としました。
老人が「公園の場所は昔のままですけれど、風景はだいぶ変わりました」というと
「幼い頃、よく遊んだ遊具はもう残っていませんわ」老女は答えました。
しばらくすると、老人は老女に
「ご主人を亡くされたそうですね。風の便りに聞きましたが」
「去年のことです。あなたは」
「私も妻を二年前に亡くしました」
「お互い、色々なことがあったようですね」
「はい」