【 第九章 】

 そうして迎えた次の休み時間、レミから何かある様子で話し掛けて来た。

「ナオトくん」
「おぉぉぉぉ」
 橋渡しをしてやる、との言葉を胸に、オレの席の前までやって来ていた箕屋本《みやもと》、早速、話に入って来たレミに対してかなり嬉しそうな様子だ。

 飯のときに言っていた通り、箕屋本《みやもと》にも少しチャンスをやるかと想い、一緒に「お喋り」でもどうだ?と、話を向けようと、チラッとそんなコトを思ったときレミがソレを遮《さえぎ》るようにこう言った。

「チョット、ナオトくん借りていい?」
「ぇ?」
 明らかに不満そうな箕屋本《みやもと》。

「オマエ、何だよ、やっぱりオマエらっ!? なんかその! なんかそのっ!」
 慌てているその箕屋本《みやもと》の様子を見て少し笑っているレミ。

「ウフフフ♪ チョットだけ、ゴメンね? お喋りの邪魔しちゃって」
「いゃ、いいんです! レミちゃんの頼みであれば!」
 そんなコトを言ってチョットカッコ付けている箕屋本《みやもと》、本当にワカリやすいヤツだ……。

「話って何だよ?」
「チョット……、すぐ済むから」
 と、言ってオレを連れ出すレミ。

「箕屋本《みやもと》……、くん?」
「はい!」
 レミに話し掛けられて明らかにご機嫌に成っている様子の箕屋本《みやもと》。

「チョットだけナオトくん借りるね? ゴメンねお喋り遮《さえぎ》っちゃって」
 と、言うレミに対し。
「いや、結構です、レミちゃんのお願いであればどんなコトだって!」
 そう胸を張って言っている箕屋本《みやもと》、一生懸命なのはイイが、何かあんまりカッコ良くないぞ? 箕屋本《みやもと》…、と、チョットそんなコトを思っているオレ。

「そう、アリガト、じゃチョット、ナオトくん」
「うん、何だよ改まって……」
「チョット着いてきて」
「何処にだよ……」
「じゃ、箕屋本《みやもと》くん、また今度♪」
「は、はい! 是非また今度っ!」
 レミに声を掛けられて明らかに舞い上がっている箕屋本《みやもと》、全く本当にワカリやすいヤツだな……。

「何処に行くってんだよ」
 そんなコトを言いながら、レミに教室を連れ出されるオレ……。
「イイから着いてきて、屋上行こっ? アソコなら誰にも邪魔されずに話せるから」
「屋上? 施錠《せじょう》されてて入れネェだろ?」
「ウフフフフ♪」
 意味深な笑みを浮かべ、とにかくイイから来て、と、いう感じでオレを連れ出すレミ、階段を登り屋上の入り口に辿り着く。

「閉まってんだろ? 話すならココでもイイんじゃないのか?」
「せっかくだから、イイじゃない、屋上は気持ちいいよ?」
「確かに一回行ってみたい場所ではあったが……」
「でしょ? だから♪」

 ガチャ、屋上のドアに手を掛けるレミ、そして、ギ――――ッ、という音を立てて開くその入り口。
「おぉぉぉお、開いてんのか?」
「チョット細工を♪」
「なんだソレは……」

 コレまでにも、夢の中で話が出来るってんで、その超常的な出来事を毎晩味わっていたので、ソコまでは驚かなく成ってはいたのだが……、夢の他にも、まだ何か出来るコトがあるのか? コイツは一体本当にどんなヤツなんだ?とか、想いながら、屋上に出るレミとオレ、少し屋上の上から観える景色なんかを見つつ、スゥ~~っと胸いっぱいに空気を吸って気持ち良さそうな様子のレミ。

「う~~~~ん、やっぱり、こういう広々とした景色を眺められるトコロってイイね?♪」
「まァな……」
 ソレについては異論は無いが……、一体どういうカラクリだ? 屋上なんか普通開いているハズが無いだろ…、とか、いぶかしんでいるオレが居た。

「チョット細工をね? 用務員のオジさんの夢に少しだけ♪」
 そんなコトを言って、いつものステキ過ぎる笑顔で微笑んでいる。

「細工って何をしたんだよ? オマエ一体ナニモノなんだ? 本当に…」
「そんなコトより、こないだの夜話したコト憶えてる?」
「こないだの?」
 う~~ん、レミと毎晩夢の中で話しているのは事実だが……、その会話の内容まではハッキリとは憶えていないというのが正直なトコロだ。

「ナオトくんが言っていたんだけど……、アタシと夢の中で繋がっているっていう決定的な証拠が欲しいって」
「ん? あァ……、確かに……」
 そういえば、そんなような話をしていたっけか? 何日か前の夢の中で……

「ウフフフフフ♪」
 イタズラっぽく笑っているレミ。
「なっ、なんだよ……」
「いや、コレからアタシが言うコト聞いたら、ナオトくんどんな反応するかな?って想ったら楽しく成っちゃって♪」
 ヤケに嬉しそうな様子でそう言っているレミ。

「オレ……、何て言っていたんだ? そんとき……」
「本当に憶えて居ないんだね?」
「うん……、確かに夢の中にオマエが出て来てくれている、ってぇのはワカルんだが……」

「モンド・ギリアス♪」

「っ!?」
「ウフフフフフ♪」

 いっ、今っ、なんつった!?

「モン・ド、ギリ・アス♪」

 一瞬、走馬灯でも走るかのように、オレの頭にこの間《あいだ》レミと夢の中で会話した内容が、ブワ~~ッと湧き出てくる。

「っっっっっ!?」
 正直、驚愕する気持ちを抑えられないオレが居た。

「なんでしょ? ナオトくんが幼稚園の頃に好きだった怪獣? の、名前♪」
「ぁっ……ぁぁぁぁぁ……」
 言葉を失っているオレが居た……。

「戦隊ヒーロー? ソレに出てきた怪獣の名前って♪」
「っ!? マジかっ!!!!!!!!!!????????」
「マジです♪」

 正直、耳を疑った……っ、確か、そうだ……「オレしか知らないハズのコトを、レミがオレに現実世界で言ったら……、夢の中で実際に一緒に居るっていうのを信じられるかもしれない……っ」そういう「段取り」みたいのをして……、そのときに言ったオレの中で、ほぼオレしか知り得ないハズの内容……っ、今、レミは実際にこの……、目の前のレミは……、ハッキリと……、そう言った……っ。

「おぃおぃ、ソレって、その……っ!」
「うん♪ この間《あいだ》ナオトくんが夢の中でアタシに教えてくれたコト……、そうなんでしょ?♪」
 レミは「どうだ? 思い知ったか?♪」と、でも、言わんばかりの得意げな表情だ……。

「ぁっ、ぁぁぁぁぁ……」
「ウフフフフフ♪」
 まだ、ア然として、何も言えないでいるオレが居る……。

「マジで繋がってんのかっ!? あの……っ、ゆっ、夢の中で……っ!」
「ウフフフフ♪ やっと、認めたか♪」

 信じられないコトだが……、確かに今レミは「戦隊ヒーローの怪獣でオレが一番好きなヤツが、モンド・ギリアス」……、そう言ってのけた……。

 オレからレミの夢の中に入っているのか、レミがオレの夢の中に入って来ているのか、そのどっちかまではワカラナイが……、とにかくオレ達二人が現実のようにやりとりをしている、と、いうのは認めざるを得ない事実のようだ……。

「しっ、信じられない……」
「ウフフフフフ♪ 無理に信じなくてもイイし……、慌てて理解しようとしてくれなくてもいいよ……」
「ぁっ、ぃやあの、えと……」
 驚愕して固まっているオレの様子を、少しイタズラっぽい笑みを浮かべ見つめているレミ。

「オマエって、何ていうか……、あの夢の中に居るオマエは……」
「うん♪」
「ホンモノのオマエなのか……?」
「そういうコト♪ やっと、ワカッテくれた?」
「いや、ワカッテくれたも何もよ……」
 いまだ全く動揺を隠せずに、上がり捲くった心拍数と共に心臓が激しく鼓動しているのをいやが上にも抑えられないでいるオレ……、正直、頭が真っ白に成って、意識がブッ飛びそうだ……。

「そっ、そんなの……、ちょっ、チョット待ってくれ……」
「うん、なに?」
 オレは、改めて本気で本気なのか? コレは本当に起こっているコトなのか、と、いうのを確認する為に聞いてみた……。

「本当に……、オレ達って……、夢の中で実際にオマエとオレが会って会話をしている、っていうコトなのか……?」
「うん、そうだってさっきから言っているじゃない」

 しっ、信じられん……、確かレミは、ドリーム・ウォーカー……、そんなようなコトを言っていたが……、実際に「夢の中を渡り歩く」……、そんなコトが可能だとでもいうのを認めろっていうのかよ……。

「ぅ、ぅぅぅ……」
「なに?」
 まだ、動揺が抑えられないでいるオレの様子を少し楽しげに見つめているレミ。

「オレからオマエの夢の中に入るっていうのも出来るのか……?」
「うん、ナオトくんにもその力があるから……、コツがワカッテくれば、アタシみたいなドリーム・ウォーカー同士の夢の中だけじゃなくて……、他の人の夢の中にも……入れるように成るんだよ?」
「なっ、なんだよソレ……」
 正直、ソレがイイことのか悪いコトなのか全然ワカラン……、なんだその能力は……、とにかく理解の範疇《はんちゅう》を超えてい過ぎて……、今、夢の中じゃないよな? ソレを確かめるようにオレは周《まわ》りを眺めてみる、ソコには校舎の屋上から観える景色が広がっている、グラウンド、水平線……、ソレに見渡す限りの広い空……、今ココは確かに現実の世界のようだ……。

「信じられん……」
「ウフフフフフ♪ 少しずつ……、少しずつ……ね?♪」

 少しもへったくれもあるもんか、そんなコト……、と、思わずにはおれないオレが居たが……。

「さっきの、その、用務員のオジさんに細工ってのも……」
「うん♪ 夢の中でチョットお願いして置いたの」
 マジか……、コイツ一体ナニモノなんだ? 本当に……。

「夢の中で頼んだコトを、実際の現実世界でやって貰えちゃうなんてのが……」
「うん……、毎回上手く行くっていうワケでは無いけど、ソレもチョットしたコツみたいのがあって♪ 慣れてくれば結構簡単だよ♪」
 ダっ、ダメだ、非日常的な現象過ぎて、頭がこんがらがって何にも入って来ない……、そのとき、一つ気に成るコトがオレの頭を過《よ》ぎった。

「ちょっ! チョット待て」
「ん? 何?」
「オマエ、まさかっ!」
「なに?」
「ウチの学校の、ウチのクラス……、オレの隣の席……、ソレもひょっとして……っ」
「アハハ、バレちゃったか……♪ そ、校長先生と担任の先生に夢の中でお願いして置いたの、ソレバレちゃったのはなんか照れるけど……、どうせなら、ナオトくんの近くで学校生活を送りたかったから……」

 なっ、何てヤツだ……、何だかワカラナイが……、コイツ……、オレが考えるような世界に普通に居る人間じゃない……、ただそう、ただそういうように……、感じて居た……。

 ただ、のびやかに広がる大空を見上げるコトが出来、どこまでも伸びる水平線を眺めるこの屋上からの景色……、ソレだけは悪くない気がする……、と、なんかよくワカラン感慨めいたモノと、この今信じられないような衝撃的な事実を突き付けられ、いまだ動揺を隠し切れないでいるオレが……、ソコに居た……。