【 第八章 】
「おぃオマエ……」
「なっ、なんだよ……っ、ぶしつけに」
飯を食っているときのコトだった。
「オマエ、レミちゃんと席が隣なのはイイとして、随分と仲がイイ様子だな? いつの間に、仲良く成りやがったんだ?」
と、箕屋本《みやもと》。
どうしようか? 夢の中でとはいえ毎晩会っているから、と、でも説明しろとでも言うのか……、いゃ何となく言ってはいけないような気がするし……、話したトコロでおそらく理解はしてくれないだろう、そんな風に想ったので。
「いゃまァ……、いつの間にっていうか……」
とか、何とか言ってお茶を濁して置いた。
「羨まし過ぎるぞ? 席が隣ってだけでも、みんなオマエの幸運さをひがんで居るっていうのに」
随分と率直に言って来るようだが、コイツはそういうヤツだと思っておいて貰えたらソレで大体間違っていないので、こういうヤツだと思っていて欲しい。
「オマエ、女子と喋るの苦手とか言ってなかったか?」
「うん、まァ、そうなんだけど……」
「どうやって仲良く成ったんだ?」
だから、ソレは説明出来ないんだってばさ……、とか、想っていたが……。
「何ていうか、ほら……、あの娘、優しいだろ? 可愛いし……、何ていうか話し易《やす》いから……、まァ、席が隣ってのがやっぱラッキーだったのかもな?」
とりあえず、そんな風に説明して置いた……。
「ったくよォ、クラスの男子は今みんなほぼレミちゃんの話題で持ち切りだぜ……っ、誰が一番最初に射止めるかってな?」
「まァな……」
確かに、レミは可愛いし、実際性格も良い、休み時間に成ると意を決した男子が毎時間のように群がってくる、ソレに対して嫌がる様子も無く、一人ひとりに誠実に対応をしているという様子だ……、ソレを観ていると確かにチョット嫉妬めいた気持ちが沸いてくるというのがあるのはオレの中だけのヒミツなんだが……。
「まさか、オマエもう付き合っているとか言い出したりとかしないだろうな!?」
チョット焦った様子で、そう聞いてくる箕屋本《みやもと》……。
「……」
はて、どう答えたモノだろうか……、夢の中では確かにイイ仲に成っているのは事実だ……、ほぼ毎晩のように夢の中で一緒にお喋りをして楽しく過ごしている……、付き合っているというワケでは無いが……、親密な仲に成っているというのは間違い無いだろう……、チラリとそんなようなコトをほのめかしてくれたコトもあったように記憶しているし……。
「おぃおぃ、ソコで無言に成るってコトはオマエ! ひょっとしてオマエっ!」
いゃ、まだお互いが「付き合う」と、いうようなコトは言って居ないはずだ……、夢の中で何を言ったか全部憶えているワケではないが……、とりあえず、この現実世界ではまだ、オレとレミは席が隣っていうだけのただのクラスメートでしか無いコトだけは確かだ……。
「いや、付き合ってはいない」
「なんだその意味深な発言は、今はまだだけど、コレからそう成りそうだ、みたいなニュアンスをオレは今、確かに感じたぞ!?」
かなりツッコんだコトを聞いてくる箕屋本《みやもと》……、どうやらコイツ、レミにかなりご執心なようだ……、ま、あの「笑顔」は確かに無敵級のレベルだからなァ……、一発で恋に堕ちるのは良くワカル気がする……、っていうか、オレもその一人だったしな……。
「不公平だ」
「なにがだよ」
「オマエは席が隣というアドバンテージを最大限利用し過ぎだ、少しそのメリットをオレにも分けろ」
「ハァ? どういうコトだよ、なんかオマエとレミとの間《あいだ》に橋渡しみたいな手助けでもしろってぇのか?」
核心を突いて聞いてみた。
「ぉっ、おう……、そっ、その通りだよ……、オレとレミちゃんの仲を取り持ってくれ……」
随分ハッキリと言い切ったモノだな……。
「そんなに好きなら自分でやれよ、告白をするか、少なくとも他の男子に負けない位のバイタリティで休み時間に話掛けに通《かよ》ったりするとかよ」
「ソレが出来たらオマエに頼んだりはしない」
ごもっともです……。
「とにかくズルイぞ、オマエばっかり……」
「オマエ、リサちゃんに対してもそんなコトを言っていなかったか?」
「……」
「リサちゃんのコトはもう諦めたのか?」
「いや……、諦めたっていうか……、何ていうか…、リサは……高嶺の花過ぎるって感じがして……、何ていうか近づき難いオーラを感じてしまうというか……」
「確かにな……」
今のトコロ、ウチのクラスで男子からの人気を二分する程の位置にあるのが、今名前が挙がったリサっていう娘だ……、可愛くて優しくて気が利いておしとやかで、何処か上品なのにあどけなさが残っているという感じで、レミの笑顔と同じで、一度喋ったら、そのハートをゴッソリと持って行かれる、何ていうかそんな超絶癒し系のカワイイ娘だ……、正直言うと、オレ自身もそのハートを持って行かれた男子の一人である、と、いうのはコレまたヒミツにして置いて貰いたい……。
「とりあえず、次の休み時間にでも、オレに話し掛けに来い、そしたらレミに話振って、3人で喋れるような状態を作ってやるよ」
「マジかっ!? おぉわが友よ!」
うん、まァ…、何ていうか、人と付き合うのが苦手なオレにこうやっていつもストレートに接してくれる貴重な存在だからな? 箕屋本《みやもと》は…、ソレにレミとだったらオレは最早緊張しないで喋れるように成っている、少なからずコイツのお手伝い位なら出来そうだと感じたから、チョットそんな風に言って置いた。
「でも、後《あと》は自分でやれよな? 最初に喋れる切っ掛け位には成ると想うから、まァ、後《あと》は頑張れ」
「なんだよ、最後まで応援してくれよ」
「本気で付き合いたいって想って居るんなら、オレなんて充《あ》てにせず、自分でやれ、そしたら応援してやるが、全部おんぶにだっこでってぇのは、きっとレミがオマエを好きに成ってくれるっていう風には成らない、つまりだ」
「なんだよ」
「オレが手伝えば手伝う程、オマエにとっては好きに成って貰えるチャンスは減って行くっていうワケだ」
「なっ、なんだよソレ……」
「恋愛ってぇのはそういうモンなんだよ、本気で自分に惚れて欲しいなら、最初から気合入れて全部自分でやれ、そうしたらオレは素直にオマエを応援してやる」
チョット可哀想な気もしなくも無いが、オレ自身が想う恋愛観から箕屋本《みやもと》にオレなりの精一杯のアドヴァイスをしてみた。
「オマエ、応援しようとしてくれているのか、そうでないのかワカンネェな? なんか」
まァな、オレ自身も良くワカラン。
「まァ気長に頑張れ」
とは、言ったモノの……、あの「笑顔」が誰か一人のモノに成ってしまうっていうのはチョット寂しい気がする……、オレやっぱり惚れてるっていうコトに成るのかなァ? レミは……、だとしたら、オレの箕屋本《みやもと》に対するアドヴァイスはどっかで防御線を引こうとしている気持ちから出た言葉だったのだろうか……、う~~ん、何だか良くワカラン……。
「ワカッタ、じゃ最初だけ手伝ってくれ、さっきの3人で喋るっていうヤツ、次の休み時間に実行してくれ」
「うん、まァいいよ、ソレ位なら……」
とりあえず、そのときはそんな風に返答したが……、正直複雑な気持ちだ……、第一レミは、誰かと付き合い出したりしたら……、オレとの夢の中での時間を持ってくれなく成ってしまうのだろうか……、今夜チョットソレとなく聞いてみるか……。
「よし、頼んだぞ? 我が友よ」
「うん…、まァ、ワカッタよ……」
そんなやりとりがあり、その夜、夢の中でレミに少々思い切ったコトを聞いてみようとチョット心の中で自分を奮起させているオレだった……。