【 第六章 】

 いつものように、夢の中でレミと喋っていたときのコト。
 ひとしきり、お喋りに花が咲き、少しの間、沈黙に成る……、いつものコトだが、そういうときレミは微笑を浮かべて何処か遠くを見るような美しい視線で何かを見つめている……。

「はァ……、カワイイ……、オレこの娘といつまでも、例え夢の中でとは言えこうやってずっと一緒に居られたらイイのになァ……」そんなようなコトを想い巡らせるのが、そういうときのオレの中での習慣のように成っている、ふと、そんなレミのキレイな瞳にウットリとしてボーッとしているオレの視線に気付き、コチラへ顔を向けるレミ、「うっ!」っと、声に成らない声を上げて、慌てて視線を逸《そ》らすオレが居る。

「ウフフフフ♪」
 イタズラっぽく笑うレミ。
「なっ、なんだよ……」
「ぅぅぅん、何となく……♪」
「なっ、何となく……、なっ、何だよ……」
 ドギマギしながら、そんな受け答えしか出来ないでいるオレが居る。

「ウフフフ♪ 何となァく、今、ナオトくんがどんなコトを考えてくれているのかなァ~~っていうのが、ワカッちゃった気がして♪」
「なっ、何をだよっ!」
 心を見透かされたような気がして、焦りを隠せないで居るオレ。

「…………」
 少し押し黙った様子のレミ。
 そして、ユックリと口を開く……。

「アタシね?」
「ぅん……」
「ナオトくん、と、こうやって一緒に居られる時間、凄く大切な時間だっていう気がしているの……」
「…………」
 レミのその一言を聞いて、嬉しい気持ちが沸いてくるのを感じているオレ。

「アタシ……、ナオトくんと出逢えて本当に良かった……、そう想っているの……」
「…………」
 言葉に成らなかったが……、正直言ってソレを言うなら、オレの方がそんな気持ちで一杯だと感じていた。

「アタシ、ナオトくんと、こうやってとりとめの無い話をしていられるときが……、好き♪」
「っ!?」
 レミがそうハッキリと言ってくれたコトに、嬉しい気持ちと同様に、少し焦って動揺を隠せないで居るオレ。

「す……、好きって、好きって……、って言ってくれたの……か……?」
「うん♪」

 そして、レミは思い切った様子で、こんな話をオレに語り掛けるようにし始めてくれた……。

「アタシね? ずっと3年間引き篭もっていたって言ったでしょ?」
「うん……」
「ソレには、ソレなりに色んな事情があったんだけど……、自分がドリーム・ウォーカーって気付く前から、どっか世の中に対して色々と幻滅しちゃって気が滅入っちゃっている自分が居たの……」
「うん……」
 ソレはオレも同感だ……、レミとこうして居られる時間は例えようも無い位に幸せなひとときだ……、でも、ひとたび現実の世界にって成ると……、思い通りに成らないコトがあり過ぎて……、くさくさとした後ろ向きな気持ちに成ってしまうコトなんて日常茶飯事だから……。

「で……、あるとき夢の中で……、アナタを観掛けたの……」
「オレ……、を……?」
「そう♪」
 レミは嬉しげな様子でそう言った。

「そのときは、もう自分には人の夢の中に入り込める力があるっていうのは知って居たから……、引き篭もっていて何もするコトも無いし……、ゲーム感覚っていうのかな? 夜、眠りに就いてから、色んな人の夢の中を渡り歩くのが……、唯一の趣味みたいに成っていたの……」

「うん……、な、なんかワカル気がする……、曲がりなりにも……、その人の深層心理みたいなのを観て周《まわ》れるって成ったら……、夢中に成るのはワカル気がするよ……」
「ウフフフ、アリガト♪ そう、本当にそんな感じで……、色んな人の心の中を覗かせて貰っていたの……、今想うと、チョット悪趣味かな?って感じもしなくは無いんだけど」
 と、言って少し笑っているレミ。

「でも……、ほとんどの人達は……、世の中に対して幻滅している……、そんな深層心理の人達ばかりだった……、表向きキレイな夢を観ているようで、ず~~っと、奥まで見させて貰ったら、大抵の人は……、ソコで「満足」していて……、何かを変えようって希望を持っている人は居なかった……」
「…………」

 確かに「夢」の無い時代っちゃ時代だからな……、オレなんかより遥かに前から、コイツは世の中の人達が人生に「希望」を失って……、ただ日々を送っているだけっていう「諦めに満ちた世界」を肌で感じて居たんだな……、そんな風に想いながら話を聞いていた……。

「で、あるとき……、たまたまだけど、凄く強い光がある人を見つけたの……」
「強い……光……?」
「そう……、なにコレ……?って、いう位に強くて力強くて、何処か温かくて……、人生を諦めている人達ばっかりの夢の中に辟易《へきえき》としてたアタシは、もしかしたら、この人には……、今までの人とは違った何かがあるのかも? みたいな、期待半分、諦め半分っていうか……、興味本位っていうか……、なんか、とにかく少しだけ「希望」みたいなのが、その光の先に有りますようにっていう願うような気持ちで、その強い光を発している人の夢の中を覗かせて貰うコトにしたの……」

「うん……、で、その人は、どんなヤツだったんだ?」
 オレに話したいコトが溜まっていたのか……、何か想うトコロがあったのかはワカラナイが、珍しく自分の過去について熱心に話し続けるレミの言葉に……、オレは吸い寄せられるような気持ちで聞き入って行った……。

「ビックリしたんだよ?」
「なっ、なにが……だ?」
「その眩しい光を放っている人の、心の中……」
「うん……、どんなヤツだったんだ?」

「何処まで行っても、その明るい光で彩《いろど》られていたの……、えっ、何? この人どんな人なの? 産まれたての赤ん坊か何か? そんな風に想ったくらい」
「随分と明るい性格のヤツだったんだな? その人……」
「うん……、本当に一番一番奥の底の方まで行っても、強くて眩しい光に包まれていて、何ていうのかな? 負けるっていう感情が何処にも無いの」
「そんなトコまで、ワカッちゃうのか……」
「うん……、チョット……、ズルイよね? 無断で人の性格を読み取っちゃうなんて♪」
 と、少し申し訳なさげにそう言っているレミ。

「何処を見ても、真っ白で汚れ一つ付いてない……、余りにも力強くてキレイな光に包まれていたので、その人の心の中に触ってみたら、こんな言葉が聞えたの……」
「なんて……、言っていたんだ……? その人は……」

「人の生きる道に、勝ちも負けも無い……、何度でもやり直せる、だからオレは一度も負けたコトが無い、コレまでも……、そして、コレからも……っ、て……」
「随分と前向きなヤツだな……?」
「うん♪ アタシもそう想った……」
 と、言い、そのときのコトを想い出したのか顔がほころんだ様子のレミ。

「いわゆる、穢《けが》れて無い人ってワケか……」
「そう……、その人は穢《けが》れて無かった……、っていうか、多分……、色んなコトがあったんだと想うんだけど……、その度にその人は自分の力で立ち直って行っていたんだ……、って想ったの……」
「…………、頭が下がるぜ、伝記にでも載りそうな人だな?」
「ウフフフフ♪ そうだね? ホント」
 と、言って笑っているレミ。

「で、ソレ以来、アタシは何かイヤなコトがあったときとか……、ふさぎ込んじゃうときとかって……、既に引き篭もりに成っちゃっては居たときだったんだけど……」
「うん……、その人んトコに行って、元気を分けて貰おうとか、そんな感じだったワケだ」
「そう!」
 レミは嬉しげにハッキリとそう言った。
「そうなの!♪ ワカッテくれるっ!?」
「あっ、いや……、なんかワカルよ……、そういうの……」
 かく言うオレも……、イヤなコトがあったときとか……、とにかく、この今目の前に居るときおり「天使」のような笑顔を観せてくれるレミに、何度その心を救われたか知れない……。

「で……、あんまりにも……、ステキな人なんだって、想って……、あるとき聞いてみたの……、チョットっていうか、すっごいドキドキしたんだけど……」
「まァな? 人の夢ん中に勝手に入っていって、その人に話し掛けでもしたら、そりゃ向こうからしたらマジでビックリするだろうからな?」
「うん……、そ、そうは想ったんだけど……、どうしても……、その人のコトをもっと……知りたくなって……、そしたらね?」
「うん……」
「ソレが…………」
 少し顔を赤らめるレミ。

「ナオトくんだったの」

 ソレを聞いたとき……、何ていうか……、一瞬、全ての時間が止まったように感じてしまっているオレが居た……、寝耳に水ってのは、どうやら、こういうコトを言うのかと……、そんな風に想って……。