【 第三章 】

 ソレから、毎晩のように夢の中で彼女と過ごす日々を送り……、年が明け冬休みが終わり、また憂鬱な学校生活3学期が始まった日のコト……。

 登校してみると、一番後ろの席であるオレの横に机と椅子が置かれていた……。

 奇数人のウチのクラス……、一番後ろの席である隣は誰もおらず……空いていたはずなのだが……、何なんだろうか? 冬休みの間にどっかの部活かなんかがこの教室を使って、スペースを開ける為に移動してその後、戻すときに間違えたのか……そんな風にチラッと思ったりしたが、まァ、オレの知ったこっちゃないか、特に気にも掛けずホームルームの時間を迎えた……。

 そして、そのときは突然やってきた……。

 少し気だるそうな様子で入ってくるいつもの担任、そしてその先生はこんなコトを口にした。

「今日から、新しい生徒が入る、みんなゼヒ仲良くしてやって欲しい、では、安佐宮《あさみや》くん、入って来て」

 は? 転入生? こんな時期にか……? ま、人には色々と事情があるか……、そんなコトを思っていると教室のドアが開き「入って来て」と、言われたその生徒が入ってきた。っていうか、今、担任のヤツ、安佐宮《あさみや》 とか、言ってたな? 何となくどっかで聞いたような名前だ……?

 そして、その開いたドアから入ってきた人物を観て、オレは驚きを隠せなかった……っ、そのドアから入ってきた人物はショートカットで何処からどう観ても非の打ち所が無いといった感じの美少女……、そうオレが毎晩夢の中で出逢っていた彼女だった……っ。

 ユックリと緊張した面持《おもも》ちで入って来て教壇の前に立った彼女、その可愛さに男子達は早くもいろめき立つ様子を隠せないで居る……、そして彼女の方はというと少し緊張した様子でソコに立っていた。

「さ、じゃ、みんなに自己紹介して」と、先生に促《うなが》されるその美少女。

 そして彼女は思い切った様子で口を開いた。
「どうも、はじめまして皆さんおはようございます……、えっと……安佐宮《あさみや》レミ、と、いいます、コレからゼヒよろしくお願いします」
 と、何とか自己紹介を終え、ペコリと頭を下げる彼女。

「あ……っ!」
 余りの驚きで思わず、少し声が出てしまったオレ、周《まわ》りの生徒何人かがソレに反応しコチラを少し見たが、すぐにその視線は再び教壇の前に立つ彼女の方へと注がれた。

「えっと……、色々事情があって……、ワタシは今19歳です、あ、あと、A型です、よろしくお願いします」
 少しドギマギした様子ながらも、そうハッキリと口にした彼女……。

「か、可愛い……っ」
 思わず、誰かが口走っているのが聞こえた……、オレ自身は驚きを隠せずに戸惑っていたが、周《まわ》りの男子は既に彼女の可愛さに心を奪われ始めている様子だ。

「えっと、席は、アソコの一番後ろに空いている席が君の席だから、ソコに座って、何か分からなかったら、横の嘉坐原《かざはら》に聞いて、と、いうコトで嘉坐原《かざはら》ヨロシクな?」

「ぁ……、は、はい……」
 と、弱々しく答えるオレ……、正直まだ驚きと動揺が全く抑えられない……。

「コレはマジか? ソレとも、まだいつもの夢の続きか…?」そんなコトを想って正直、慌てふためいている気持ちを抑えられないで居るオレ……。

 先生に促《うなが》され、オレの横にやってくる彼女、「間違いない、クリスマスのあの日、寒空の中ケーキを頑張って売っていて、ソレから毎晩夢に出て来てくれていた、彼女だ……、そういえば……夢の中で自己紹介だなんだのと言った時に……安佐宮《あさみや》って言っていたはずだ……っ、なんだコレ、正夢かっ!?」ワケが判らず、焦りを隠せないで居るオレ、そんな驚きに翻弄されている頃、彼女は何事も無かったように、今日から新しく用意されて空いていた横の机の席についた…っ。

「あ……、えっと……、あの……」
 いまだ、落ち着きが取り戻せず、 焦った気持ちをあらわにしてあたふたしてしまっているオレ……、そんなオレに彼女は席に着きながらこう言った……。

「やっと、本当に逢えたね?」
「いゃっ! えっと、あっ、は、はい……っ!?」
 あんな可愛い娘と隣の席なんて、羨ましいぞこのヤローといった周囲の男子の視線をバンバンに浴びながら、いまだ慌てふためいているオレ……いま、「やっと、本当に逢えたね?」って言ってたよな…っ、どっ、どういうコトなんだよ、コレ……っ、事態が全く飲み込めず、全く落ち着きを取り戻せない……っ。

「コレからヨロシクお願いします♪」と、言ってニコッと笑う彼女……。
 間違いないあの娘だ……、夢に毎晩出て来ているケーキを売ってた娘だ……っ。

「こっ、コレって、あのっ!」
 焦ってそんな言葉を発してしまう。

「また今夜ユックリ話しましょ?♪」
 慌てる様子も無く、コトも無げに彼女はそう言った。
「あっ、えと……、はっ、はい……」
 そう答えるのが精一杯だった……。