【 第二十六章 】
クリスマスのイルミネーションで彩《いろど》られた街並みをレミと一緒に歩く……、去年のオレはサンタなんかくそ喰らえ、神様なんて存在しない、いまいましいカップル達め、爆発しろ……、そんな気持ちで一杯だった……、ソレが今は、その去年、まるで空から舞い降りたかのような「可憐な笑顔のレミ」に心奪われ共に過ごしたたくさんの時間を、なんとなく走馬灯のように心に想い浮かべ直していた……。
あァ…、オレ今、この娘と一緒に歩いているんだなァ…。
ソレを祝福してくれるかのようにキラキラとまたたいては消える、蛍光色に彩《いろど》られた夜のこのクリスマスのイルミネーションに囲まれ、その心を奪われた……、いや奪ってくれた、その美しく輝く道を「天使のような恋人」と一緒に歩いていく……。
そう言って居なかったが……、あれから少ししてからレミはまた登校してくるように成り……、また夢の中でも会ったりしているウチに結局 元鞘《もとさや》に戻ったオレ達だった……。
去年の今からしたら想像も尽かなかった状況だ……、生きていればイイコトがある、良くそんな漠然とした「前向きに生きろ」みたいな言葉は空をつかむように虚しい戯言《たわごと》のようにしか想えて居なかったが……、そんなオレも今はその言葉を「素直」に受け止められるような心境に成っていた……。
「キレイ……」
「あァ……」
そう言って、何処までも天国にでも導いてくれるようなイルミネーションを見上げるレミの瞳は去年オレがまるで「天使のようだ…」と、心トキめいてしまったときと変わらず、いやソレ以上という位にステキにきらめきを帯びていて、その瞳は見るモノ全てを恋する気持ちにさせる、と、いうようなそんな美しい輝きに満ちていた……、そう言えば……去年の今頃……このステキな眼ととびっきりの笑顔にドギマギして一発で恋に堕ちて居たんだっけなァ……。
オレ、本当に今、その娘と一緒に居るのか……、ドリーム・ウォーカーとして過ごした一年、とてつもない程に色々なコトがあった……、ソレらとの戦いが一段落し、再び平穏な日常を取り戻した……、「夢の世界」で起きていたコト、今このイルミネーションの中を進む他のカップルや色々な人達は知る由《よし》も無いのかもしれないし……、リサは、何処かでまた何か悪巧みをしているのかもしれないが……、一応とにかく今はこうして無事にレミとオレは手と手をつなぎ……、輝くまばゆい聖なる夜の道を共に歩いている……、今が永遠に続けばイイのに、っていうのはきっとこういう気持ちを言うのだろうか……、そんなコトを想っていた……。
ひとしきり街を歩き、キレイなイルミネーションに彩《いろど》られた通りを抜けて、街を一望《いちぼう》出来る小高い丘の上へとオレ達は向かっていた、レミが「どうしても、ソコに行きたいから」と、言うので、寒空の中、出来ればどっか店にでも入って温かいモノでも食べたいな? そんな気持ちが無くも無かったが、レミが「どうしても」と、言うので着いて行った……。
そして、辿り着いた丘の上……。
「わぁ~~~~~♪」
ソコからは、オレンジや黄色に輝く光がソコかしこに点在する夜の街を一望《いちぼう》出来る光景が広がっていた……。
「スっ、スゲェなァ……」
「うん……♪」
レミは、ソコから観える景色に見とれて、またはかなげで淡い微笑を浮かべ瞳にその夜景の光をキラキラと反射させながら、その光景に見入っている……、何度も言うようだが、その瞳は、100人なら100人の男子が誰もが一瞬で恋に堕ちる、そんな無敵な何かを感じさせてくれる力があるというのは、コレまで何度も書いて来た為、イイ加減ワカッテくれていると想うが…、何度観てもその「天使のように澄んだ眼の輝き」は、観ているオレの心をグッとつかんで離さなかった……。
「寒いからどっかに、とも、思ったが…、こりゃァスゲェな……?」
「うん♪ イルミネーションもイイけど、アタシココから観える景色が大好きなの…」
レミは上気した頬を浮かべ、嬉しそうにそう言っている。
確かにレミの言う通りだ……、クリスマスのときに一時的に彩《いろど》られる通りのイルミネーションとはまた違った、もっと確かな別な幻想的な高揚《こうよう》をその景色はもたらしてくれる……、そんな風に感じながら、ソコから観える景色に見入っていた……。
造られたイルミネーションでは無く、日々誰も居ないこの丘の上からは毎日この夜景が広がっている……、ソコには確かに人々の生活が息づいているモノがあり、クリスマスだけがもたらしてくれる高揚感《こうようかん》とは別の、もっと確かな人々の営みがシッカリと息づいた生きている喜びのようなモノが、手にシッカリと伝わってくるようなそんな力強さが感じられた……。
「イルミネーションも良かったが……、コレはコレで何ていうかまた一味違った良さがあるなァ……」
思わず、そんな言葉がオレの口から出ていた……。
「うん……、あの光の一つ一つに誰かの生活があって、ソレがこうやってたくさん寄り集まって、一つの街に成っているんだよ……、誰もが日々の辛いコトなんかに直面しながら、でも、こうやってキレイな一つの景色を形作る毎日を送って居る、夢を諦めてしまっている人も居るのかもしれないけれど、でも……心の何処か、何処かでは、誰でも何かしら……、きっと「希望」のようなモノを抱いている、ソレがこの夜景のステキさを創《つく》り出していると想うの……」
「そうだよなァ……」
レミの今の言葉……、凄く重みを感じた……、彼女がコレまでたった一人でオブストラクトと戦ってきた重み、そして歳上であり、オレなんかより遥かに人生について色々と見て知って色んなコトについて考えを巡らせている、そんな苦労の積み重ねのようなモノが感じられた……。
「もうオマエだけには、苦労させないから……、オレ、ゼッタイ……」
「うん……、ありがとう……、そう言ってくれただけで、アタシ……、なんていうか……」
「なんていうか……?」
そして、レミを観た、観るとレミの眼には涙が滲んでいた。
「おっ、おぃ、何、泣いてんだよ……、オっ、オレ、何かマズイこと言っちゃったか?」
一瞬、焦ったオレが居た。
「ぅぅぅん、違うの、ナオトくんがそう言ってくれたのが……、素直に嬉しくて……♪」
「そっ、そっか……」
言葉に成らなかった……、実際、オレはレミとこうして居る資格が無いんじゃないか?っていうようなコトをかつてレミにしてしまっていた……、リサに心を奪われレミの純粋な気持ちに気付けずに傷付けてしまったコトも……、でも、今はこうして二人で居る……、オレきっと今日一緒にイルミネーションの中をこんな「天使のようなステキな娘」と歩いたコト、此処《ココ》から観える景色を眺めたコト……、ゼッタイに忘れないだろうな……? そう、強く感じていた……。
こんな風に想えるように成ったのは……全部……レミのおかげだ……、去年までのオレと来たら本当に……、サンタさんゴメン……、今までのオレのアナタへの罵詈雑言、どうか「若気の至り」と見逃して欲しい……、そんなコトを想っていた……、そして……一つの決意のような気持ちをレミに打ち明けていた……。
「レミ……」
「ん……? なに……?」
「オレ、ゼッタイオマエを幸せにするから……、何ていうか……いつまでも、オレの傍《そば》に居てくれ……」
「ウフフフフフ♪」
と、クスクスとほがらかに笑うレミ。
「なっ、なんだよっ! いっ、今のはオレなりに、あのっ、ほっ本気でだ、なっ!」
と、動揺を隠せないオレ……。
「ぅぅぅん、違うの、スゴク、その言葉が嬉しくて……」
「そっ、そっか、なっ、なら、その……、良かったっていうか……」
と、少し安心するオレ……。
そして、レミはこう付け加えてくれた……。
「言ったでしょ? 夢の中だったけどワタシはアナタを……愛しているって♪」
「そっ、そうだったな……、オレも……オレもレミを……」
「……」
「愛してる……、愛しているよ、レミ……、コレからもずっと君だけをオレは……」
「うん♪」
二人は互いに見つめあい、声を揃えるようにしてそうつぶやくのだった……。
「メリー……クリスマス♪」
Fin