【 第二十五章 】

 オレは、木を積み上げソコに粉々に成ったクライアメルの身体を運ぶと、その閉じられた眼の上に1枚ずつ金貨を載せた……。

「三途の河の渡し賃だ……、受け取ってくれ……」

 そして……。
「ファイアー」
 積み上げられた木に火が灯され、クライアメルは荼毘《だび》に伏した……。

 最後まで「戦士としての誇り」を持って戦ったクライアメル、その亡骸《なきがら》にオレは言葉を掛けていた……。

「我が友よ、また逢おう……、でもそのときは……、出来るコトならば……敵味方の関係では無く……、良き友人として出逢おう……、クライアメル……あの世に行っても……元気でな……」
 そうして眼を閉じ、暫くの間、オレは……その冥福を祈っていた……。

 そのときのコト……、突然、バタバタバタとけたたましい音が聞え始め、その音の方を見ると、黒い大きなヘリコプターがコチラに向かい着陸して来ている様子が眼に入っていた、ヘリコプターの放つ風でクライアメルを覆《おお》う荼毘《だび》の火が大きく吹かれ揺れている……。
 そしてその黒いヘリからは、一人のローブをまとった人物が降りてくるのが見えていた……。

「あらあら……、随分と感動的な光景じゃない?……もしかしてお邪魔だったかしら?♪ 戦った相手に冥福の祈りを上げちゃうなんて、もぅ、サイコーに笑えちゃう……♪」

「てめぇ…………」
 その言葉に対し、明らかに敵意を感じているオレ、しかし、その声は何処かで聞き覚えのある声……、そんな気がしていた……、そうだ、あのとき……っ、あのとき、レミを連れ去ったときに一瞬聞えた声、ソレがコイツだ……、ってコトはコイツがレミをさらって行った首謀者か……っ。

「オマエが……、レミをさらった連中の親玉か……」
「ウフフフ♪ まァ、そういうコトに成るわね? アナタにとっては、許されざるにっくき相手っていうトコロかしらね?♪」

 そう言って不適な笑みを浮かべながら、ユックリとオレの方へとやってくる、その声の主……、どうやら、コイツが……、今までレミと共に散々戦って来た……、ワイリー・フラウを率いている首謀者だというコトに間違いは無いようだった……、いよいよ「おでまし」ってワケか……、そんな緊張感を、速く成って行く心臓の鼓動と共に感じているオレが居た。

 そうして現れた、オブストラクト・ワイリー・フラウの黒幕……、その姿を観てオレは……愕然《がくぜん》とした…………。


「リ……、サ………………?」


 そう……、ワイリー・フラウを統括している第一指揮官ソレは……、オレが心からその気持ちを奪われていた……、オレの……恋人……リサだった…………。

「何よ、その顔? そんなに驚くようなコトかしら……?」
「オマエ、何やっているんだ、そんなトコロでっ!」
「観ての通りよ♪ 人は夢を観る、何でかワカル?」
「何をだよ…………っ」
「潜在意識に、自分のイイ記憶を刷《す》り込んでいく、ソレがアナタ達が夜に観ているっていう夢……」
「何が、言いたい…………」

「まだ、ワカラナイの? 欲望の芽って何処から来るのかしら……、自分が欲しいモノ、誰が決めるの? 人は夜寝ている間に、自分の行動を知らず知らずのウチに、育《はぐく》んでいるの……、アナタもあるでしょ? 買いたいと思っていなかった品物を目の前にして、突然買って帰ってしまうコト……、なんでかワカル……?」
「ソレが……、寝ている間に人間が自分の心に刷《す》り込んでいっているコトだって言いたいのか……?」
「そう、話が早くて助かるわ? さすが、アタシが見込んだ男ね? そんなトコに居ないでコッチに来なさいよ、いいモノを観せてアゲるわ? 連れてきて」
 そう言って手下に合図を送るリサ、その合図を受けてヘリコプターの中から黒い兵士に囚《とら》われたレミが姿を現す。

「レミっ!!!!!!」
「何よソレ? アンタまだこんな年増女のコトを気にしていたワケ? 呆れちゃう」
「その娘を放せ!」
「…………」
「放せって言ってるんだっ!!!!!!!」

「ふん、そう簡単に自由にしてアゲるワケには行かないわね? ワカッテいるでしょ? アンタだって、もう子供じゃないんだから……」
「オマエ、自分が何をやっているかワカッテいるのかっ!? リサっ! どうしちまったんだよオマエはっ!!!!??」
「別れた女のコトなんてどうでもイイじゃない? ソレとも、まだ未練でもあったワケ? こんなオバンに」
「どうしちまったんだよ、オマエは……、オレと一緒に居たときのオマエは何処に行っちまったんだよっ! 素直で優しくて健気《けなげ》で誰からも愛されて……、周《まわ》りに居る人達をいつも気に掛けて先回りしてみんなを大事にしてくれる……、ソレがリサじゃ無かったのかよっ!?」
「ふん、バカバカしい……、そんなのにだまされるようだから、アンタはまだまだ子供なのよ、考えてもみなさいよ」
「何をだよ……っ」
「人の行動原理は潜在意識に支配されている、その潜在意識は夢の中で創《つく》られる、アタシや、ワイリー・フラウのメンバーはソレを操《あやつ》れるのよ? ソレがどういうコトかワカラナイの?」
「オマエ、まさか……っ」
「そう……、世界中のドリーム・ウォーカー達にアタシ達の因子を埋め込めば、世界中の人達をアタシの意のままに操《あやつ》れるっていうコトよ♪ そうしたら、どう? 欲しいモノなんて簡単に手に入る、世界一の大金持ちなんてケチなコトは言わないわ? 国ごと手に入れられる……、要は夢の世界を支配すれば、世の中全てを手に入れるコトが出来るのよ?♪」

「そんなの……、マトモな人間の考えるコトじゃない……、オマエどうしちまったんだよ、本当に……、あのとき…、あのとき……、オマエと一緒に成ると誓い合ったとき、流してくれた涙は何だったんだよっ!? 人を好きに成り、幸せの本当の意味を知っているからこそ、流してくれた涙じゃ無かったのかよっ!?」
 オレは悲しみと怒りと絶望のような気持ちからそう叫んでいた……。

「アハッハハハハハ、男って本当に……単純……、女が涙を流すの何てのが、心の底から嬉しくて流した涙だと本当に想っているワケ? あんなの「社交辞令」に決まっているじゃない、おめでたいにも程があるわ?」
「オマエ、本当に一体どうしちまったんだよ……っ、オレが好きに成ったリサは何処に行っちまったんだよっ!?」

「そんなの、アンタとつるんでたソコの女と別れさせる為に決まっているじゃない、ソコの女はずっとアタシ達の邪魔をしてきた、だから一度こっぴどく痛い目に遭わせてやったのよ、なのにノコノコとまたしゃしゃり出てくるように成って、その根性には正直敬服しなくも無かったけれど、アタシは夢の世界を支配するつもりでいる、だから邪魔に成るモノは排除する、そんなの当たり前でしょ? 欲しいモノは手に入れる、その女を悲しませる為に、目障りだったから現実社会でも痛い目に遭わせてやったのよ、その為に、アンタとソコの女を別れさせた、面白いくらいに簡単だったけどね?♪」
「オマエの言いたいコトはワカッタ……、だが、レミを放せ、コレ以上オマエにっ、好き勝手なマネをさせるワケには行かネェ」

「あら……、ナカナカいい顔をするじゃない? アンタは黙ってアタシに着いてくればイイのよ、夢の中でも現実社会でも……、そうしたら、幾《いく》らでもコレから、好きなだけイイ想いをさせてアゲるわ? さっきも言ったでしょ? 人の潜在意識を支配すれば、何だって手に入るって……、アナタをこの星の王様にだって、このアタシはしてアゲられる、ワカル? たかが高校2年で世界を牛耳れるのよ? ソコの腐ったオバンなんかと一緒にちまちまとアタシ達の邪魔をして本当に世の中を変えられるとでも想っているの?」
「オマエの方こそ、世の中を甘く見過ぎているぞ……」
「何よソレ……、アタシに説教でもするつもり?」
「あァ……、一度は恋人に成ったよしみだっ! ゼッタイに忘れてはいけないコトを教えてやるっ!」
「なっ、何よ、偉そうに……、アタシはこの夢の世界を支配しているのよ? いずれ、現実社会もアタシ達の因子に染まっていく……、アンタや、そのアンタが言おうとしている何らかの力が、本当にソレを食い止められるのかしらね……」
「甘い考えは捨てろっ! 確かにオマエのやろうとしている方法で……、この世界を一度は支配するコトはもしかしたら可能かもしれない……、でも、ゼッタイにオマエの邪魔をするヤツは後を断《た》たない、今はイイかもしれない、オマエのその強大な権力をこの夢の世界で手に入れたトコまでは認めてやる……、でも、人が人を想う本当の気持ちはそんなには簡単にっ! 奪い去るコトなんて出来ネェんだよっ!!!!」
「…………」
「とにかく、レミを放せ……、コレ以上レミに何かをしようとするのなら……、オレは本当にオマエを許さない……っ! 何があっても……、どんなコトがあってもなっ!!!!」
 オレはリサの正体を知った絶望感を感じながらも、最後の力を振り絞ってそう叫んだ。

「ふん…………、惜しいコトをしたわね? せっかく……この歳で世界をその手に出来るっていうのに……、ソレに目もくれないなんて…………」
 少し残念そうな表情のリサ、そして……。
「その娘を放して」
「はっ!?」
 なっ、何を言っているのか?と、いった感じで、慌てているリサの手下達……。

「ふっ、ったく……男の子って何でこんなに頑固なのかしらね……、イイわ♪……アタシの負け……、現時点でこの世界ではアタシの方が完全に有利なはず……、いずれ実際にアタシはこの国どころか、世界をまるごと手に入れる……、ソレだけの条件付きでも目もくれないなんて……」
「じゃ、じゃあ……っ」
「ふん、勝手にしなさいよ、ワタシはワタシのやり方でやらせてもらう……、アンタはアンタのやり方で、そのアンタの言う幸せっていうのをつかみなさい……、ただし!」
「なっ、なんだよ……っ」
「次は無いと想いなさい、ウソっぱちの気持ちからだったとは言え、一度はアタシが恋人にした人……、ソレに免じて見逃してアゲる、その娘を……、レミを解放して」
「……っ!?」
 正直、レミを解放しろと命じたリサを、すぐには信じられないと、いった気持ちで見つめているオレ……。

「でもいいっ!?」
「なっ、なんだよ……っ」
「アタシにはアタシの想う幸せの形があるの……、ソレが残念ながら世の中の人達が想うようなのとは少し違っているだけ、結婚やら子育てやら、冗談じゃないわ? アタシは自分の人生を自分の持っている力を最大限に発揮して手に入れられるモノを全て手に入れたいの、ソレが……アタシの、現時点でのアタシの気持ち……」
「…………リサ……」
「もし、いつか気が変わって、アンタ達の言うようなごくごく平凡な♪ 凡人達の想うような幸せに少しでも魅力を感じてしまうような日が来るとしたら……、そのときは……、改めてお茶くらいは付き合ってよね」
「リサ…………っ!」
 その言葉を聞き、諦めたようにレミを解放する手下達……。

「ボ、ボス……本当に、イイんですか……?」
「…………、ワカラナイわ……、ただ……、なんとなくそうした方がイイような気がしただけ……ただ……、なんとなくよ…………」
「リサちゃん……」
 解放された後、少し後ろを振り返り一言そう言って、ナオトの元へ駆け寄るレミ……。

「別れるってのは、つらいわね……、ふん、せいぜい末永く、お幸せにね、じゃね♪」
 そう言ってヘリコプターに戻っていくリサ。

「リサッ!」
 オレはそう叫んでいた。
 その声をヘリのプロペラ音が掻き消す、でも構わずオレは叫んでいた……。

「世の中は簡単に行くコトばかりじゃないんだっ! だからっ、もし思い通りに成らなくなってどうしようもなくなったら、いつでもオレのトコへ来いよなっ! 待っているんだからなっ!!!!」
 声が届いたかワカラなかったが、飛び去って行くリサが載ったヘリコプターに向かいオレはそう叫んでいた……。

「ふん……、そんなコト位はワカッテいるわよ……、少なくともアタシの涙にすぐにその気に成っちゃうようなお人好しのアンタなんかよりずっとね♪」

 遠くへと飛んで行くヘリコプターを見つめるオレとレミ……、今起こったコトが正直、どう頭の中で整理すればイイのかわからず、暫く呆然としていた……、って、よくよく考えてみたら此処《ココ》は夢の中……、頭の中の整理が付かないのも無理はないのか?とか、チラッとそんなコトを思ったオレが居た……。

「リサちゃん……、行っちゃったね……」
 つぶやくようにレミが言う……。
「あァ……、って、オマエ大丈夫だったか!? ヒドイことされなかったかっ!?」
 レミが捕《つか》まっていたコトを想い出して慌ててそんなコトを聞いていた……。

「ぅぅぅん……、何処か場所はワカラなかったけど屋敷に閉じ込められて居ただけ……、何も……無かったよ……」
「そうか……」
 ただ、そう言うしか無かった……。

「オレがもっと早く本当のコトに気付いていられれば……、レミ……ゴメン……、オマエの言う通りだった……、なのにオレはリサと……」
「イイの……、囚《とら》われの身に成ったアタシを助けに来てくれた……、ソレだけで嬉しいから……」
「かっ、返す言葉が無いよ……、何て言ったらイイのか……」
「もう……、本当にナオトくんは優し過ぎるよ……、また甘えたく成っちゃうじゃない……」
「……っ!?」
 その言葉を聞いて何て答えたらイイのかワカラなかった……、リサとは別々な道を歩むコトはもう間違いない……、今、起きているコトを、朝眼が覚めたときに、どこまで憶えているかもワカラナイし……、ソレと……、おそらく、と、いうか……、リサとはコレっきりに成って、また一人に成る……、そう想うと、何ていうか手前勝手過ぎるとはワカッテはいるのだが……、またレミと…やり直したい……、そんな気持ちがうっすらと浮かんでいた……、多分、リサにはきっと、こんなオレの気持ちなんかもお見通しなんだろうな…? そんなコトを考えながら……。

「ゴメンね……」
 レミはそう言った……、全てのコトの発端は自分にあるという想いからだろうな? そんな考えが頭をかすめた……。
「レミが謝るコトじゃないよ……、レミのコトを好きに成ってノコノコ色々なトコロに着いていったっていうのが本当のトコロで……、正直 言って……正義感だけで着いて行ったワケじゃなくて……、レミの笑顔に癒されたくてずっと傍《そば》に居たかったっていうのが本当のトコロだから……」
「もう……、だから、そういうコトばっかり言っていると、また甘えたく成っちゃうじゃない……」
 少し嬉しげに笑顔でそういうレミ……。
「ナオトくんが助けに来てくれなかったら、アタシきっと……、あのまま幽閉されていたままで……、きっと起きてからも、何も出来ない毎日を送るコトに成っていたって想う……」
「そ、そっか……」
 チョット照れくさげにそう言うオレ……。

「リサちゃんと付き合って居たのに……、アタシのコト、助けに来てくれた……、正義感が無い人はそんなコトをしてくれないよ、ゼッタイ……」
 本当に嬉しいと想ってくれているのか…、レミの眼には少し涙が浮かんでいた……。
 って、待てよ、今さっきリサに……「そんなのは、ウソっぱちに決まっているじゃない」とか言われたトコロだったっけ……、って、でも……、レミの眼に浮かんだ涙……、オレにとっては、少なくともオレの中では……、とても嬉しく感じられる涙だった……。

「あ、今、リサちゃんのコト考えてたでしょ?」
「ぇっ!?」
 図星を突かれ焦るオレ……。
「もう、本当にワカリやすいな……」
 その様子を見て、またいつもの「天使のような笑顔」を浮かべるレミ……「やっぱ、可愛いんだよなァ、レミ……」って、オレ本当に、なんかいわゆる女の人にだまされやすいタイプなんだろうなァと、少し自分で自分がイヤに成るのを感じていた。

「色々あって疲れちゃった……、お腹一杯なんか食べたい気分♪」
 全く同感だと想ったオレが居る。
「うん……、ラーメンか牛丼かチャーハンかチンジャオロースか焼き鳥かお好み焼きかハンバーガーかフライドポテトかピザか何かが喰いてぇな?」

「食べたいモノあり過ぎ……♪」

 と、コロコロと可愛らしい表情で笑っているレミ……、何ていうか、いつものレミがようやく戻って来てくれたっていうような気がした……「明日から、オレ学校でリサと遭ったとき、どんな顔をすればいいのかワカラナイ」と、いうようなコトが少し頭に浮かびながらも……レミが明日から学校に復帰してくれそうな予感を感じられたのがチョット嬉しかった……「今日のトコはもうお役ゴメン」って感じかな? そんな風に想い、その日はまた深い眠りへと入って行ったのだった……。