【 第二十四章 】

 ズギュ―ン、ズギュ―ン、ズギュ―ン! 相も変わらず大量に現れる黒い兵士達を、貫通弾に切り替えた夢想ライフルで撃ち抜き前へ前へと一歩ずつ前進して行くオレ……、レミ、待っていろよ? 必ずオマエを、助け出してみせるからなァ!?

 ズギュ―ン、ズギュ―ン、ズギュ―ン! 銃弾をドテっ腹に喰らい消し飛んで行く黒い兵士達、ったく、この「眠り主」は本当一体どんなヤツなんだ!? どれだけやっつければ大人しく成ってくれるっていうんだ、この人は……っ! そんなオレの気持ちになど一切介するコトなく、ソコかしこから現れ、オレの方に群がってくるブラック・アーマー達。

「ちっ、コレじゃァ、いつまで経《た》っても埒《らち》があかネェっ!」

 オレは貫通弾からランチャーに切り替えて、敵が束に成っているトコロに向けて、ソレを何発も発射する、着弾し轟音を立てて火柱を上げるその迫撃砲、ちりぢり粉々に成って砕け散る黒い兵士達……、こんだけやっても、威勢が衰えない……、ったく、本当にこの「眠り主」一体どれだけワイリー・フラウの連中に汚染されているんだっ! そう想いながらも四方八方に向けて引き金を引き続けるオレ。

 ガガ――ン! ガガ――ン! ランチャーから放たれた砲弾が敵を粉々に砕け飛ばして行く……、少し収まって来たかっ!? あと、一息と、いうトコロかっ!? アレから、かなりの戦いを突破して、戦闘のレベルは格段に上達しているオレ、接近するアーマー達を一体残らず寄せ付けずソイツらを的確に弾け飛ばすように撃ち抜いていく……、そして、最後ようやく、数えるコトが出来る程に減った、ブラック・アーマーを一体残らず仕留め……、ふぅ~~っと一息付く……。

「はぁ……はぁ……はぁ……、コレ、で、全部……か……?」

 夢の中だから銃弾が尽きる、と、いうコトは無い……、しかし集中力には限界がある……、何とかソレが切れる前に……、一応、オレの前からオレに向かって襲い掛かってくるその黒い兵士達の姿は消えていた……。

「この先にきっと……、この先にきっと、レミは……囚《とら》われているはず……」
 そう想い足を進める……、そのときのコトだった……っ。

 ズガガガガガガ――っ! 見ると地面に数本の亀裂が走り、ソレが少し盛り上がった後、その亀裂を弾け飛ばすようにして、巨大なモンスターが地中から姿を現した……。
「く、くそぅ、まだ敵が居やがったのか……、いよいよ敵の親玉出現とでもいった感じか?」
 そんな考えが頭の中を過《よ》ぎる。

 ズガガガガッ! ガガガガ――ン! 土煙を上げ激しく手足を振り上げながら、轟音を立て、その巨大な魔物の全体像が浮かび上がる。

「ちぃ、いよいよラスボスのお出ましってワケかっ!?」
「グハハハハハハハっ、貴様か!? 昨今《さっこん》、女王様の計画をチョコチョコと、かき乱していた、という、不逞《ふてい》の輩《やから》というのはァ!?」
 大音声を上げ、そう口にするそのモンスター。

「じょ、女王だと……?」
「あァ、そうだ、貴様が今倒した連中は……、女王様に使える親衛隊、アルトフラム黒の騎士団だ」
「アルトフラム……、し、親衛隊……?」
「そうだ……、ソレを全滅させるとは……、中々大したモノだ……、人間の中にもソレだけの「夢想力」を備えたヤツが存在するとはなァ? 一応、貴様という存在を、このワシも認めてやらなくては成らんようだ」
 少し苦々しげな表情で、ただ、しかし、コレから始まるであろう、最後の戦いに向けて高揚感《こうようかん》を感じているような楽しげな気持ちを含んだ声で、そう発するその巨大なモンスター。

「この連中は、その女王とやらの近衛兵だった、と、いうワケか……」
「そうだ……、一応我がワイリー・フラウの中では精鋭部隊と呼ばれていたのだがな……?」
 ソレを全滅させたオレに対し驚きを隠せないというような面持《おもも》ちでそう言っている。

「んで……、オマエは……、その近衛兵達の……、最後の砦《とりで》ってヤツか……」
「ハッハッハッハッハ、中々話が早いじゃないか?♪ その通りだ、アルトフラム師団長を務める、女王様よりその力を授《さず》かった、古《いにしえ》からの最後の生き残りとして魔族の長である……、クライアメル……、ソレがオレの名前だ……、コレから貴様ら人間どもにとっては幾人《いくにん》モノ悪夢に宿り、畏怖の対象として永く崇《あが》め奉《たてまつ》られる存在だ、しかと憶えておくが良い、この名前をなァっ!」
「ふん……、何だか知らネェが、どっちにしろ、その女王ってヤツの「使いっ走り」ってコトには変わりネェだろ、何が畏怖の対象だっ! 笑わせるなっ! ソレよりその女王ってのは何処に居るんだっ! オレはそいつに用があるんだ……っ、オマエなんかの相手をしているヒマは……ネェんだよっ!」
「へっ、中々口の減らネェガキじゃネェか、アルトフラムの連中をやっつけたってぇのも、満更偶然でも無いってぇワケだな? コレは少しは楽しめそうだ♪」
「ご託はもうイイ! 魔族の生き残りとか言っていたなァ!? ふん……、だったらテメェを倒してその魔族とやらの歴史に引導を渡してやるぜ! どっからでも掛かって来やがれ!」
「人間、というのはつくづく目先の効かぬヤツばかりだ……、貴様が今ワシに対し放った言葉……、ソレを思い切り後悔させてやるぞ……、ハ――ッハッハッハッハ♪」
 構えを見せ、戦闘の始まりを予感させるクライアメル。

「何でもイイ、オマエ何かには用は無ぇんだ……、ソコをどかネェってんなら……、貴様を倒して無理にでも踏み越えてやるまでだ、行くぜっ!!!!」
「フハハハハハハハ、何処までも口の減らネェガキだ、気に入ったが容赦はしない、覚悟しろっ!!」
「ふん、覚悟なんてモンはとっくに出来てらァっ! 喰らえっ! ストロムランド・アーリーレイドっ!!」
 そう叫ぶオレ、構えた夢想ライフルの先から強烈な光が発せられて、クライアメルに突き刺さる。
 バシ――――ッ!!!! 手応えはあったが、全くソレにひるむ様子が無いクライアメル。

「ハ――ハッハッハッハッハ、少しはやるようじゃないかァ、そうこなくっちゃァ、いけネェやっ!!!!」
 と、言うなりその巨体からは想像出来ないようなスピードで、ナオトに接近しその腕を大きく振り上げてから、ナオトに向かい勢い良く振り降ろす!
 ズガ――――――――ン! 辺りに砕けた地面が弾け飛び巨大な土煙が上がる。

「っ!?」
 クライアメルの腕が当たるより、一瞬早く「夢想防壁」を張り直撃を免《まぬが》れるナオト、しかしその力は半端無く、防壁ごと強烈な勢いで弾き飛ばされる。

「うっ、ぐ、ぐァ……っ、痛ぅ……っ!」
「ハ――ハッハッハッハ、貴様ら人間ごときの放つ「夢想砲撃」なぞ、この魔族の長たるクライアメル様にとっては痛くもかゆくも無いわっ!!♪」

「くぅ……、チキショ―、どうやら……、そういうコトみてぇだな?」
「フッフッフ、今更後悔しても遅いぞ? 小僧、このクライアメル様に戦いを挑んだコトをあの世に行って存分に悔やむがイイっ!!!!」
 再び俊敏な動きでナオトに襲い掛かるクライアメル。

 バシ――――――――ッ!
 再び、強烈な一打を喰らい弾け飛ばされるナオト。

「うっ、うぐっ! うぐァ――――っ!」
 と、苦痛に声が漏れるオレ……、チキショ―どうしたらイイ……、コイツマジに強ぇ……っ。

「ハ――ハッハッハッハッハ、貴様ら人間ごときがワシの相手など務まるハズが無かろう! とっとと諦めて、その運命を受け入れるが良い! コレから死ぬという、その運命をなァっ!!」

 再び突進してくるクライアメル。
 ダッ、ダメだ……、このままじゃやられる……、何とか何とか方法はっ、コイツを倒す方法は無いのかっ!?

 ガガ――――ン! クライアメルの攻撃により地面が弾け飛び、巨大な攻撃をなんとかかわしながら走り回るナオトの周《まわ》りに土煙が何本も上がっていく……。

 レミっ! どうしたらイイっ! コイツを倒すにはァっ…っ!

「ほらほら、どうしたァっ!? 貴様の攻撃はさっきのガキのオモチャみてぇなレーザー光線一発で終わりかァっ! そんなんじゃァ、このワシを倒すコトは出来んぞォっ! アルトフラムを全滅させた割には全く歯応えの無いヤツだァ――、その程度ではこのワシは満足せんぞ――ォ!」
 ズガ――――ン! ズガガガ――ン! 俊敏な動きでナオトの動きを封じ尚も強烈な一打を浴びせ突き飛ばし続けるクライアメル。

 ちっ、チキショ―、どうしたらイイっ!? このままじゃ、本当にコイツに殺られちまうっ! 考えろ! 考えるんだっ! レミはどう言っていたっ!? この夢想世界での戦いにっ!

 ズガ――ン! ズガガガ――ン! 夢想防壁を張りながら何とかクライアメルの攻撃を凌ぐのに精一杯のナオト。

「親衛隊を倒した貴様がこの程度では、女王様は満足せんぞォ! 見せてみろォ! キサマの本領を――ォっ!!」
 背中に付いた突起から光を放ちナオトを攻撃するクライアメル、その光線の威力は凄まじく、着弾した地面が大きく掘り返され爆風が吹き荒れる。
「ぐァ――――――――っ!!!!」

「ほらほらァ、もう後が無いぞ――ォ、どうするんだ? えぇ、小僧――っ!?♪」
 そして、もう一度突起をナオトに向け光線を放つ体勢に入るクライアメル。

 くぅ、ヤバイ! あんなのを喰らったらマジで堪《たま》ったモノじゃネェ! どうすんだ! どうすんだ! ナオト考えるんだ!

 そのとき一瞬、かつてレミが言っていた言葉が浮かんでいた……。

「此処《ココ》は夢の中なのよ? 現実世界とは全く違うの、想ったコトが何でもその通りに成る、最初はチョットコツがいるけどね?」
 その言葉が一瞬頭に過《よ》ぎる! そっ、そうだ! 此処《ココ》は夢の中なんだ、ってコトは、どんな武器でも想いのままのハズ! 今までで一番の武器は……っ! そうだ、あのとき、あのときっ!
 オレはかつてレミと戦った、モンド・ギリアスとの戦いを想い出していた。

「フフフフ、もう後が無いぞ? 小僧、コレでぇっ、デッドエンドだァ……っ♪」
 背中から伸び出た2本の突起、その先端からナオトに向け強烈なレーザー光を放つ体勢に入るクライアメル。

 あのとき! そうだっ! プラズマ・ガンデッド! アレで、あの強力な夢想巨大モンスターのモンド・ギリアスを一撃で仕留めたんだっ! アレなら! アレならきっとコイツにもダメージをっ!
 シュイイイイイイイイイイイイン……、クライアメルの2本の突起に光が集まっていく、最早ナオトに狙いを済ませたレーザー光は発射寸前と成っている。

 そのとき、オレは叫んだ!
「出でよ! プラズマ・ガンデッドっ!」
 そして、オレの手にあのとき、あのモンド・ギリアスを仕留めたフィーダー・デッドの必殺兵器が現れる。

「んあ?」
 その様子を観て苦笑するクライアメル。
「ふん、今更そんなオモチャみてぇな大砲でこのオレを倒せるとでもっ!?」
「やってみなけりゃあワカラナイさっ!!!!」
「だが、もう貴様は終わりだァ、喰らえっ!」
 クライアメルから2本の光線がナオトに向かって放たれる!
 ビシュ――――――――っ!!!!

 負けてたまるか! オレはこんなトコでやられるワケには行かネェんだ!
「オレはっ! オレはっ! ゼッタイにレミを助けるんだっ! そっちこそ喰らいやがれ! プラズマ・ガンデッド! いっけぇえええええええええっ!!!!」
 そしてその引き金を引くナオト、プラズマ・ガンデッドの強烈なレーザー光がその先端より発射される!
 バシ――――――――ッ! クライアメルの放った光線とプラズマ・ガンデッドの強烈な光線が空中で激突するっ!

「ぐぅうううううううううううううううううううううううう!」
「グァァアアアアアアアアアアアアアアア!」
 両者の声がその光線の衝突と共にその場に響き渡る。

「いっけええええええええええええええええええ!」
 叫ぶナオト、プラズマ・ガンデッドの強烈な光がついに、クライアメルの光線を弾け飛ばす!

「なっ、なにっ!?」
 ソレを見て、焦りと驚きを隠せないで居るクライアメル!

「プラズマ・ガンデッドは正義のヒーローの武器なんだっ! ソレがっ! ソレがっ! オマエのような悪の手先なんかにはゼッタイにっ! ゼッタイに負けるハズはァ、ネェんだよぉお――――――――っ!」
「なっ、なっ、なんだとおおおおおおおおおっ!」
 クライアメルの光を突破した、プラズマ・ガンデッドの強烈なレーザー光がついにクライアメルに到達するっ!!!!

「そっ、そんなバカなっ!? こっ、この魔族の長たるこのワシがっ! 人間ごときにぃいいいいいいいい!」
「いっけええええええええええええええええええええええええっ!!!!」
「うっ、うぐっ、うぐぐっぐウゥゥグウアァアアアアアアアアアアアア!」
 ガンデッドのレーザー光がクライアメルの身体を真っ二つに切り裂くように強烈に撃ち抜く!

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 ガガガガガ――――――――ン!!!!
 断末魔をあげ、その身体《からだ》が弾け飛ぶクライアメル

「やったかっ!?」
 はぁはぁ……、息を整えながら、地に伏したクライアメルの元へ駆け寄るナオト。

「バッ、バカな……、このワシが……、にっ、人間ごと、きに……」
 力無く、最後の声を振り絞るように、そう話すクライアメル……。

 駆け寄ったナオトが語り掛ける。
「オマエ……、魔族の生き残りって言っていたな……、本当にオマエが最後なのか……?」
 ソレに対し弱々しく答えるクライアメル……。

「ぁ、ぁあぁ……、ワシが最後の生き残りだ……、ソレを、ソレを……」
「ソレを……、なんだ……?」
「女王様がワシの力を見込んで、近衛兵の司令官にしてくださったんだ……」
「…………」
「そっ、その期待に……応えられなかった……、オマエ……人間にしては……、大したヤツだ……、さっ、最後に名前を聞いても……、いいか……?」
 遠のく意識を必死に堪《こら》えるように、声を振り絞っているクライアメル……。

「ナオト……、嘉坐原《かざはら》……ナオト……、オマエの最後に戦った男、ソレがそのオレの名前だ……」
「そっ、そうか……、オマエみたいな強いヤツが居るってワカッテいたら……、オレは……、もっと別な方法で……、魔族を生き残らせるコトを……、かっ、考えていたかもしれない……な……」
「クライアメル……、オマエはオマエなりの方法で自分達のコトを考えていたんだな……」
「ハッハッハ……、ま……、でも、その夢も……、もう叶いそうには……無いけど、な……」
「今は科学が世の中を支配している、そんな中で……オマエ……、いやオマエ達は……何処にも居場所が無く成ってしまって居たんだな……、もっと早くオマエのようなヤツが居るっていうコトに気付いていられれば……」
「ハッハッハ……、このオレに情けを掛けるのか……? いらぬ同情というヤツだ……、戦って……死ねるコトは戦士の証だ……、最後に……オマエみたいな、強い……強い気持ちを持ったヤツに出会えて……、ワ、ワシは……良かったの、かも……しれん…………」
「…………、もし、次にオマエと出会えるコトがあるならば、もっと別な形で出会いたかったな……」
「フッフッフ……何処までも甘いヤツだ……、そんな考えでは……、まァいい、さらばだ…若き戦士よ……、ワシは魔族……行く先は地獄かもしれんがな……、ハッ、ハハハハ……」
「そんなコトは無い、オマエの弔《とむら》いはしてやる、必ず、きっと今度生まれ変わるときの為にしっかりと見送ってやる、だから、そんなコトを言うな……」
「……、あ……、アリガトよ……、オレは最後に…………、ようやく…、誰かを信じる、と、いう……、コトが……出来、たの、……かも……しれん……、さ、サラバだ……若き、戦士よ……」
「…………」

 その言葉を最後に、息絶えたクライアメルだった……。