【 第二章 】
眠りに就いて間もなくのコト……、白いモヤのようなモノが掛かった宮殿のような場所に立っているオレが居た……、あァ、夢の中か……、なんとなくソレを確認するような気持ちで少しその変なモヤの掛かった世界を歩いてみる……、別段変わったコトは無い、特に面白くも何も無い夢だ……。
「ったく……、夢の中まで味気無いのか……」何度も言うが……、オレは心底アンチクリスマスの想いで一杯に成っていた……、そんな気持ちで少しその辺をフラフラと歩いていたときのコト、急に声を掛けられた。
「ケーキ、美味しかったですか?♪」
「あ?」
突然、声を掛けられて少し驚いたが、所詮夢の中だ……、ソコでどんなコトが起ころうとフシギじゃない……、オレはそう想い、驚いた気持ちはすぐにかき消えて、その声の主の方に振り返ってみた。
「っ!」
「どっ、どうかしましたか?」
あの娘だった……。
「あっ、いやっ、えっと……っ!」
「ウフフフフ♪」
オレが驚いている様子を観て笑っているその娘。
「ケーキ、本当に食べてくれたみたいですね?」
「あァ……、は、はい……、そ、あの、ソコソコ美味しかったです……」
そんなコトを思わず言っているオレが居た。
「ソコソコですか? もっと、喜んで貰えたら良かったのに……」
と、少し残念な様子のその娘。
「あっ、いやっ、えっとっ! そっ、そのケーキ何て食べるの久しぶりだったし……、オレ、あんまり、甘党じゃ無いから……」
「そうなんだ……、じゃ、でも、ソレなのに、今日は買ってくれてありがとうございました」
と、微笑んでいるその娘。
間違いない、あの寒空の中、外で頑張って売り子さんをしていた、天使のようなあの娘だ……、コレはオレにとっては「クリスマス・プレゼント」と想ってイイかな? チョット、そんなようなコトを想ったオレが居た……。
「バイト、寒くなかったですか?」
「あ、うん……、あの後、雪が強く成って来ちゃってね? さすがに見兼ねて外での販売は終了して、お店の中に全部戻しちゃったの……」
「ですよね……、あの時点で既にこんな中、女の子一人外に出して、バイトさせるなんて、非人道的というか……、マッチ売りの少女か? みたいな感じでチョット想っちゃってました……」
「ウフフフフ♪」
ソレを聞いてチョット楽しげに笑っている彼女、そしてこう付け加えて話していた。
「でもね? お店の中に入っちゃったら、もうお客さん来なくってあの後、一個も売れなかったの、だから、おにいさんが最後のお客さんだったんだよ? 本当にありがと」
「あっ、いや……、すっ、少しは、貢献出来たのかな……、お店の販売に……」
「うん…♪ チョコのヤツは売り切れって成ったから褒められたよ?」
「そっか、良かった……、ウチもワンホール全部は一人で食えなかったから半分に切って家族に渡したんだけど、珍しいコトもあるもんだ、みたいな感じで喜ばれてた」
ソレを聞き、嬉しげな表情を浮かべるその娘。
「良かった、正直男の子ってケーキそんなに好きじゃない人も居るから、無理して買って貰っちゃってたら、悪いかなァ?って、チョット後《あと》に成ってそんなコトを考えちゃってたの」
「あ、いや、久しぶりに食ったんで美味かったですよ、クリスマス・ケーキ、今夜中に食べてくれって話だったから……」
「無理して食べてくれたの?♪」
そう言って、少しイタズラっぽい笑みを浮かべつつコッチに言ってきてくれたその娘。
「あっ、いや、無理してっていうか…、まァ、少しは無理したかな? でも」
「でも?」
「あんなクリスマスっぽいコトしたの、本当何年ぶりかだったから、何ていうかありがと……、イイ想い出に成ったよ……、凄く可愛い娘に売って貰えたっていうのも嬉しかったし」
「良かった♪」
そう言って、またあの観ていてまぶし過ぎる位の満面の笑みを浮かべてくれるその娘……。
「今日は本当にありがとう、とにかく、おにいさんが最後のお客さんだったの……、残ったのはバイトのみんなで持ち帰るコトに成っちゃったから、おにいさんが買ってくれなかったら、完売って成る商品が無いまま終わっちゃうトコロだったんだよ?」
「そっか、本当にオレなんかが少しは役に立てたようで良かった」
「うん、こちらこそ、お買い上げありがとうございました♪」
そう言って、またあの「天使のような笑顔」をオレに向けてくれていた……。
その後《あと》は、どう成ったかは良く憶えて居ない、何かしらもうチョット喋ったような気もしなくも無いが、所詮は夢の中の話だ、特に憶えていたからと言って、何かあるワケじゃない。
「じゃ、また、明日……」
最後にそんなようなコトを言っていたような気がする……、ソレを最後にオレは深い眠りに就いた……。
ソレ以来、オレは何となくではあるのだが、眠りに就くのが楽しみに成っていた……、そう夢の中でとは言え、あのクリスマスの夜、ケーキを売っていた可愛い売り子さんが毎晩のようにオレの「夢の中」に現れるように成ってくれていたからだ。
その「夢の中」では、特に何をするというのでも無いのだが……、いつも、とりとめの無い話をして時間が過ぎ、そして深い眠りに就いて朝起きる、と、いうのを繰り返していた……、いわゆる、夢見がイイ、というのは、こういうコトなのだろうか? 朝起きた頃には、その「夢の中」で、どんな話をしていたか? なんてぇのは忘れてしまって内容を覚えているコトはほとんど無かったが……、彼女居ない暦=年齢のこのオレにとって、その可憐な美少女と過ごせるひとときは、例え「夢の中」でとはいえ、かなり楽しみなモノに成っていた。
「こんばんは、今日もやって来ちゃいました♪」
と、彼女。
「おう、昨日ぶり」
と、返すオレ。
夢の中では、多少昨日話した内容を思い出しているようで、その続きからまた「会話」が始まっていくと、いう感じだ。
「確か、新しいケーキがどうのとか、そんなコトを言っていたような気がする」
「あ、そうそう、そうなの、アタシがね? こういうのどうですか?って、提案するケーキがことごとく却下されているの」
「ちなみに、どんなのを提案しているんだ?」
「こしあん入り、どら焼き風ケーキとか、甘い桃が入ったシュークリームとか、そういうヤツ」
ソレを聞きオレは答える。
「こしあん入り、どら焼き風ってのは、そのままどら焼きで食べた方がイイんじゃないのか?」
「ソコは……、確かにそうかもしれないんだけど、アタシとしてはいつまでもおんなじのを売っていたら、お客さんに飽きられちゃうでしょ? だから、どんどん新しい商品を作っていって、お客さんを開拓していかなきゃ成らないって、そう想って言っているのよ」
うん、まァ、言いたいコトの筋は通っている気がするが……。
「桃入りシュークリームは無理だろ……」
「なんで?」
「桃から出る汁で、シューがふやけちゃうだろ」
「あ、そっか」
「アハハハハ」
と、いったように、いつも何かそんなような「とりとめの無い話」をして時間が過ぎ、ある程度 経《た》つと、本気で眠くなり深く眠りに就いて、その日のやりとりは終了して行くという感じだった、んで、朝、起きると、その内容はほとんど忘れてしまっている、と、いったような毎日を繰り返していたワケだが……、はて、たかだかあの一瞬、クリスマスの夜に少しやりとりをしてソレに萌え捲くった、と、いうだけで、こう何晩も同じ人の夢を観続けるだろうか……? ソコに少しフシギな気持ちを感じ始めていたときのコト。
と、ある夜、また夢の中。
「そういやァさ」
「なに?」
「まだ、お互い自己紹介とかして居なかったよね?」
「そういえば、そうだね、いっつもお喋りに夢中に成っていて、そんなコト全然考えて居なかった♪」
「うん……、オレもまさか、こんなに毎晩夢に観るとは思って居なかったし、夢の中で知らない人と自己紹介をする機会なんて、コレまで、全くと言ってイイ程無かったから……」
「そう想うと、何か変な感じだね?♪」
と、彼女。
変というか、変過ぎるだろ……、とも想ったが、あのクリスマスの夜のやりとりがよっぽどオレの中で大きなインパクトを残した出来事だったんだな? ソレで、きっと毎晩こうして夢の中に「彼女」が現れるんだろう、とか想って、少し変だなァ?とは、感じつつも、お互いの自己紹介をするコトにした。
「あ、オレは……、嘉坐原《かざはら》ナオト16歳、あ、今年で16歳の高校一年生、血液型はB型」
「B型なんだ、アハハハ」
と、彼女。
「なんだよ、B型でなんか悪いかよ?」
「いや、良く言うでしょ? B型の人は超超超マイペース、何があろうと我が道を進む人が多いって、ナオト……くん? だから、ナオトくんもそうなのかな?って、思って♪」
と、笑っている彼女。
「しっ、失礼な、コレでも結構マジメで、気ぃ遣《つか》いなトコロがあるんだぞ?」
「うん、ソレは……、こうやって毎晩話していてそう想った、結構、ちゃんとコッチの話を聞いてくれるな?って」
「毎晩、話してるって……、やっぱり、ウチら毎晩、こうして夢の中で話しているっていうのがちゃんと踏襲《とうしゅう》されているのかな……?」
「とーしゅー?」
「あ、いや、夢なのにも関わらず、毎晩話している内容がきちんと、繋がり続けているのかな?って」
「そりゃ、そうでしょ」
「そういうモンか?」
「うん、だって、アタシ達、ドリーム・ウォーカーだから」
「は? ドリーム・ウォーカー……? なんだソレ?」
「うんと、ソレは話すと長いや♪」
と、チョット楽しげに笑っている彼女。
「じゃあ、アタシね?」
「うん」
「アタシは安佐宮《あさみや》レミ、19歳、血液型はA型、よろしくね?」
「あ、ぅん……、って!」
「ん? なに?」
「歳上だったんだ!?」
「ん、アレ、言わなかったっけ?」
「てっきり、おない年ぐらいかと想ってた……」
「えっと……、ソレ良く言われる……」
と、チョット不服そうな表情の彼女。
「あっ、ゴメン、いや悪い意味じゃ無いんだけど」
「アハハハ、本当に気ぃ遣《つか》い屋さんだね?」
「ぅ、ぅん……、一応……、ま、でも、家族とは仲悪いんだけど……」
「ぇぇ、なんで?」
「いや、地の性格は、やっぱり超マイペースだから、親って色々言ってくるじゃん? マジ超鬱陶しくって、そういうのが」
「アハハハハ、やっぱりB型だね?♪」
と、楽しげに笑っている彼女。
「そんなに、イメージ悪い? B型って……」
「う~ん、まァ、一般的に……、マイペース過ぎるみたいな、そういう捉《とら》え方はされているっていう気がするかな?」
「お、オレは一応、ちゃんと、そっ、ソレなりに、きちんと人と接するときは、ちゃんと接するようにしていると、いうか……」
「アハハハハ、気ぃ遣《つか》ってくれてるんだ♪」
「まァ、初対面みたいな人とか……、あと、目上の人に対してとかは……」
「目下の人に対しては?」
「あ……、結構ワガママに接しているかもしれない……」
「やっぱり、マイペースなんだね? 地の部分では♪」
と、案の定そうなんだ、と、言わんばかりの様子で楽しげに笑っている。
「しっ、失敬な、だから、ちゃんとするトコロではちゃんとしているってば」
「うん……、ソレは話しててそう思った、さっきも言ったけど、この人、人の話ちゃんと聞いてくれる人だなって」
「そ、そりゃあ、そうだよ、オレだって、ソレなりに16年、生きて来てもう高校一年生なワケなんだから」
「そっか……、高校一年生か……」
「うん……、レミ、レミさんは……、今は学生さんなの?」
「そっ、ソレに関しては……、チョット……」
と、何となく聞いてはマズイような内容らしいので。
「ま、人ソレぞれだよね?」
とか、一応言っておいた。
「うん、今はそう想って置いて、近々きちんとした報告が出来ると想うから」
「きちんとした報告?」
「うん、今はバイトしかやっていないけど、アタシもソレなりに考えている部分があるから……」
「そっか……、だよね? そう聞くとやっぱり歳上って感じがする、その、見た目から行くと、もっと若いかと想ったんだけど……」
「まだ、ソレ言うかなァ……♪」
「あ、いやっ、だからその! 決して悪い意味じゃなくてっ!」
「アハハハハ、うん、ありがとぉ♪」
「今日も一杯、喋っちゃったなァ」
「そうだネェ、なんかナオトくんとだと、話し易《やす》くって……、何となく毎晩、ココに足運んじゃう」
「何? その足を運んじゃうっていうのは、どっかのゲームセンターみたいな感じなの? オレって……」
「あっ、そう、まさにそんな感じ♪」
「なんだ、ソレ……」
「ウフフフフ♪ じゃ、今日はコレくらいで」
「うん」
「じゃ、また明日よろしく♪」
「あ、うん」
そんな感じでやりとりが終わり、オレは深い眠りへと入って行った……、でもなんだろう?「ドリーム・ウォーカーとか言っていたけど……、ソレって、一体なんなんだろうか……?」そんなコトを想いながら……。