【 第十八章 】
そうして迎えた体育祭。
ウチのクラスは一致団結の気持ちを高めようと、リサが中心に成って、クラスの女子数人で全員分の鉢巻《はちまき》を用意してくれていた、ソレも、タダの鉢巻では無く、よくリレーのアンカーなんかが付けている思いっきり長くて走っていると、後ろにおっきくたなびくカッコイイヤツだ……。
思えば、小学校、中学校と、クラスの中で一番、足が速いヤツだけが着けられる、その長い鉢巻、その「一番足が速い人」っていうのがありありと伺《うかが》える、ソレに対して、どっか「羨ましい」っていう気持ちがあったそのステータスの証であった長い鉢巻をリサは。
「運動神経なんて関係無いの、要はやる気の問題、誰もがクラスの気持ちを一心に背負って競技に臨《のぞ》めるように……」
その為にクラスの全員がアンカーと同じように、皆の気持ちを込めて1日頑張れるように、と、いう、そのカッコイイ長い鉢巻を作ってくれていたのだった……。
当日、皆にそのオレンジ色の少し光沢のある鉢巻が配られる……、コレまでゼッタイにそんなカッコイイ鉢巻に縁の無かったオレなんかも含めて、他の男子達も喜んでソレを頭に巻いていた……、ソレもただの薄っぺらい布切れでは無く、シルクでスベスベしていて光を反射する、とても出来の良い鉢巻だ……、着けているだけで気持ちが昂《たか》ぶって来るモノがあった……。
「今日はみんな頑張ろうね?」そのリサの言葉に反応するかのように、みんながそのカッコイイ鉢巻を締めているという連帯感ともあいまって、いやが上にも士気が上がっているウチのクラスメート達……。
競技は「出場したい人」全てが出ていいルールに成っており、他のクラスのようにただ惰性で臨《のぞ》んでいる連中とは違い、せっかく女子達が作ってくれた鉢巻の想いを無駄にしたくないと、ウチのクラスからは各競技への参加者がかなりの人数に上っていた、その為、競技が始まるに連れ、上位に入った人から加算される点数がどんどんと増えて行き、午後の昼食の時間を迎える頃には、ウチのクラスがダントツの1位の座に就いていた。
そんな中、オレとリサは実行委員の為、障害物競走の準備やテープカット、上位入賞者を1位、2位、3位のフラッグの後ろに案内したり、やるコトも多く、必然的にリサとオレは行動を共にするコトが多い中……、応援席の方では出場していないクラスメート達が飲み物が入っていた紙コップの底をくりぬいて作った即席のメガホンで一生懸命熱の帯びた声援を送ってくれていた。
「うわァ……、なんかイイなァ……、こういうみんなが一つの気持ちに成って、何かに臨《のぞ》めるのって……、青春って感じがして、熱い気持ちが幾《いく》らでもフツフツと沸き出でてくるようだ……」
オレはそんなコトを想い、長い鉢巻をたなびかせながら上位に向けて頑張って走ってくるウチのクラスの男女達を誇らしげに入賞者の列に案内していた。そういうような感じで、見事1位でゴールしてきたウチのクラスの橋本をテープカットで出迎えたときも。
「やった! 橋本マジ頑張ったじゃん!?♪」
「おう、クラスの女子達にイイとこ見せたくってよ? フルパワー出しちまったぜ、今日のオレは、いつもの「明日から頑張る」じゃなくて「今日頑張る」の本気のオレだぜ、この後もガンガン色んなのに出場して黄色い声援浴び捲くってやるからなっ!?♪」
と、上機嫌でゴールして来たりしていた、そんなような感じで、リサがテープカットをしているとき等には上位入賞したウチの男子達のテンションの上がり方が半端無く。
「見ていてくれた!? リサちゃん! オレ、クラスのポイントに貢献したぜ!?♪」
上気した頬を浮かべ、そんなコトをクラスのツートップであるリサに得意気に興奮気味に喋っている選手も良く見掛けた、そんな風にして応援にも出場する選手達も士気が高く、午後に向けてウチのクラスはいやが上にも盛り上がっていた。そして、皆に弁当とお茶を配っているリサとオレ、リサはクラスメート一人一人に声を掛けながら弁当を配っている。
「みんなのおかげだよ?♪」
そんな風に言って、午前中頑張ったウチのクラスの出場選手達をねぎらっている、そのリサの気持ちに、嬉しさを隠すコト無くあらわにしている午前中頑張ったクラスメート達、その相乗効果からか、両隣のクラスとは全く違う熱気に満ちながら昼食を取っているウチのクラスの男女達の面々がソコにあった。
「この調子で行ったら優勝間違い無し! 後は最後のリレーまで気を抜かずにゼッタイ勝とうねっ!?」
そう言って、更にみんなの気持ちに一致団結の想いを高めて行くリサ。
この娘、本当にイイ娘だなァ……、そんな風に感じた……、短い高校生活……、クラスが一丸と成って出来るコトと行ったら、後は「文化祭」くらいだ、修学旅行もあるにはあるが、アレは「班分け」がされるし、みんなで一つの想い出にって成るっていうのとは少し違う想い出として残るはず……、と、成ると、このクラス全員での「共通の想い出」にするコトが出来る、この体育祭は、年に2回あるそんな想い出を残せる貴重なチャンスのウチの一回であり、他のやる気の余り感じられないテンションが低いクラスとは違って、少しでも皆で一緒に頑張れるように、一生懸命皆に声を掛けて周《まわ》っているリサの姿は、本当に何て言うか言葉では言い表せない位ステキな姿としてオレの眼に映っていた……。
そして、最後のリレー、そのリレーには、クラス選抜の本気で「足の速い4人」が決まり競技に臨《のぞ》んだ、固唾を呑んでその光景に見入るオレ達2-Bの生徒達。
ダ――――ン!
スタートの号令が掛かり、各クラスの選手達が一斉にスタート、スタートダッシュに成功したウチのクラスの宮川、のっけから1位の状態に成っている、ソレを見て応援に熱が入って行くクラスメート達、更に2人目、3人目と、少し2位のクラスの生徒に距離を縮められるもなんとか1位をキープしている……、「このまま行ってくれ――!」誰もがそんな想いでトラックを見つめ声を張り上げる!「ガンバレー!」「頑張ってぇ! あと少し――っ!!!!」「お願い、勝ってぇ~~!」そんな皆の心の底からの声援が湧き上がっている、今日1日、皆で少しずつ積み上げて稼いできた点数、既にウチのクラスはトップに躍り出ていたが、最後のリレー、体育祭の締めくくりソコで、どうしても「優勝」という栄冠を手にしたい、皆が心一つにそんなコトを願い声を張り上げていた。
そしてバトンはついに最後のアンカー、ウチのクラスでダントツに運動神経のイイ、長崎に手渡される、ソコからの長崎は本当に凄かった、2位との差をドンドンと突き放し、200m周《まわ》ったトコロでほぼウチのクラスが優勝するのは目に見えていた、その光景を前にがぜん、盛り上がるクラスメート達! 「いっけええええええええええ!」「長崎ぃぃいいいいいいいい!」「このままブッちぎれええええっ!」、最終種目であるクラス対抗リレーでの優勝、そのゴールが迫っていく緊張感が皆の気持ちを一気に高めて行く、そしてっ!
パ――――ン!
1位の選手がテープカットをして、その砲声がトラックに鳴り響く、長崎の走りは半端無く、2位のE組にほぼ半周差を付けて、ダントツの1位だった!
「やったァアアアアアアアアアアアっ!!!!」皆が誰彼無く抱き合って喜んでいる! そのとき、トラックの端で、走る選手たちの列への整頓をやっていたオレ、そのオレの眼には歓喜に沸いている応援席のクラスメート達の姿が観えていた……、その光景を少し離れたトコロから眼にしていたオレ、そんなオレも思わず「いゃったァ~!♪」と、叫んでしまい、応援席で喜んでいる皆の姿と、皆の気持ちが本当に一つに成ったそのときの瞬間の感激からチョット眼に涙が浮かんでしまっている程だった……。
各種目への参加人数が圧倒的に多かったウチのクラスは当然入賞者も多くダントツの1位、リサを始めクラスの女子達が皆の為にと作ってくれた長くオレンジで光沢のあるシルクの鉢巻に込められた想いは見事、今日この体育祭で身を結ぶコトが出来たのだった……。
表彰式が行われ、実行委員だったリサとオレがトロフィーと盾を受け取る、ソレを拍手喝采《はくしゅかっさい》で、盛り上がり迎えてくれるクラスメート達、まだこのクラスに成って、約1ヶ月しか経《た》って居ないが、率先して皆を率いていたリサの頑張りから始まって、最後の最後に感激に満ちたその瞬間をクラス全員が、ソレを心の底から享受《きょうじゅ》するコトが出来、皆一丸と成ってお互いの健闘を称《たた》え合っていた♪
そして体育祭が終わり、皆は教室へと帰って行く。
オレとリサは実行委員な為、テントを閉まったり障害物競走に使った道具を運んだり、机や椅子を特別棟に返したりなどして、実行委員会の委員長からの締めの言葉を聞いて解散するまで、色々と後片付けをしていて、ソレが終わった頃には、日も暮れ始め、全部が終わった後、クラスに帰ったときには既に皆は下校した後だった……。
でも、その教室にカバンを取りに戻った、リサとオレはクラスメート全員からのステキなプレゼントを眼にするコトが出来ていた……、ソレは……。
「クラス優勝やったぜ! リサちゃん! ナオトくん! 今日1日ありがとう!の大きな文字とその周《まわ》りを埋めるかのように、小さく一杯書き込まれているクラスメート一人一人からの今日1日の感激の気持ちがこもったたくさんのメッセージ、その皆の喜びの声に埋め尽くされたカラフルに彩《いろど》られた黒板」が、ソコにあった……。
「…………」
ソレを観て、感激の気持ちに包まれて、暫く声を失うリサとオレ……。
「みんな……、今日……本当に、楽しんでくれたんだね……♪」
「あァ……、全部オマエのおかげだよ……、今年、たまたま一緒に成ったクラスメート……、でも、今日からオレ達はただのクラスメートじゃない……、みんな一人一人がかけがえの無い……、大事な友人に成るコトが出来たんだ……、リサ……本当にお疲れ様……♪」
そのオレの言葉を言い終わるか終わらないウチに、大粒の涙を流して、声に成らない声で一生懸命「みんなの方こそアリガトウ……」と、声を振り絞っている、「喜びと感激の大きさ」を全身に感じ涙を抑えるコトが出来ず、今日という1日を振り返り、その高揚感《こうようかん》に包み込まれて泣いているリサの姿がソコにあった……。
この娘……、本当にイイ娘だなァ……、オレにはレミという彼女が居るワケだが……。
今このオレの目の前に居て、クラスメート達の「喜びの声」に感涙の涙を抑えられないで居るリサの姿は……、とても胸を打つモノがあった……、レミの言う「あの娘には気をつけて……」と、いうその言葉が気に成らなくは無いと言えば、無くは無かったのだが……、こうやって皆の気持ちを受け止めて「嬉し涙」をこぼしている、純真で、普段はおしとやかなのに、そのウチにはとても「強い情熱」のような気持ちを秘めている、この「可憐な女の子」に対し……、何処か、いとおしく、いつまでも、この娘の「ステキな想い」を守ってやりたい……、そんな気持ちがオレの中に芽生えて来てしまっている、と、いうコトは……、正直……隠しようが無い……事実だった……。