【 第十七章 】

 体育祭実行委員の会議が引けて、教室に戻っていたリサとオレ……。

「「実行委員」っていうのは、何だかんだと、やるコトが多くて大変だな?」
 と、オレ。
「ウフフフ♪ そうだね」
 と、チョット楽しげに笑っているリサ。

「リサって、こういうの何か得意そうだよな?」
「そう? なんで?」
「何ていうかさ、作業とか仕事とかがテキパキとしている、と、いうか……、書類書くのとか全部やっちゃってくれているしさ?」
「ぁ、ハハハ、ゴメン……、仕事全部取っちゃってるかな? アタシ……」
「ハハハ、いゃ、嫌味で言っているワケじゃなくて、本心からなんだよ」
 と、笑いながら返すオレ。

「アタシ……、他に取り柄って呼べるようなモノが無いから……」
「そうか? クラスの男子から人気があって、誰からも頼られていて、勉強も出来て……、仕事も早くて……、何ていうか取り柄だらけって感じがするけどな?」
 と、素直にそう想ったコトを話してみる。

「そ、そうかな……、す、素直に喜んでいいのかな? ソレって…」
「おうよ」
「アハハハハ♪ ありがと……、アタシ……、部活もやって居ないし……、短い高校生活でしょ? だから、何か出来るコトがあったら、出来るだけ頑張ってそういうのをこなして行きたいって、そう想っているの……」
「へぇ~~~~」
 正直、感心した、と、いうのがそのときのオレの素直な心境だ。

「ナオトくんこそ、凄いよ」
「ん? そうか?」
「うん♪ こういう言い方すると変かもしれないけど……」
「おう、なんだ? どんなコトだ?」
「アタシにはゼッタイ真似が出来ない……」
 少し、寂しげな表情のリサ。

「真似、出来ない……、ソレ言ったらコッチのセリフだぜ? 何でも如才《じょさい》なくこなして、その上こんなに可愛くて、男子達が夢中に成るのもワカリ過ぎる程、ワカルっていう気がするぜ」
「ウフフフ♪ ありがと……、でもね?」
「うん……」
「ソレって、アタシの見た目だけのコトだと想うの……」
 見た目……、そうか……、まァ、ソレでもこんだけ可愛ければ充分だな?とは、想わなくは無かったが……。

「人の……、本心って……、ワカラナイことだらけ……」
 何かを思い巡らせるようにそう言っている。

「確かにな? そういう部分はオレも腐るほど見て来たぜ……」
「うん……、でしょ? アタシ……中学のときにね?」
「うん」
「付き合っている人が居たの……」
 まァ、こんだけ可愛ければ彼氏の一人や二人居てもオカシク無いよな? そう想い聞いていた。

「だけど……、結局、その人は……、最終的には、他の人を選んでその人の方に行っちゃったの……、アタシはただなす術も無く一方的にフラレちゃったっていう感じで……」
 なっ、何て不届きな、こんな健気《けなげ》でマジメで可愛い娘にそんなコトをするヤツが居るとは、けっ、けしからん……、世の中ヒドイやつも居るもんだ、と、改めてそう思っていた。

「信じられネェな? リサみたいに可愛くてイイ娘……、何が不満だったんだろうな?」
「ソレは、ワカラナイの……、別れちゃった後、距離置かれちゃって、その人とはもう喋れなかったから……」

 可哀想に……、そんな風に感じたオレが居た、レミと付き合うように成るまで、年齢=彼女居ない暦だった、このオレの乏《とぼ》しい「恋愛経験」では、全く想像が付かず、こういうとき何て言ったらイイのかワカラなくて、正直チョット戸惑いながら話を聞いていた……。

「ゴメンね? 何か暗い話しちゃって…」
「いや、いいよ、こうして一緒の委員会に成ったワケだし、ソレに」
「ソレに?」
「オレとしては、1年のときクラス一緒だったろ? でも、全然喋って無かったじゃん? オレ達って……、せっかく、1年、2年と同じクラスに成ったってのも何かの縁だと想うから、その人がどういうコト考えているかとか、どういう風にコレまで生きて来たとか、そういうのって何ていうか、スッゲェ興味あるから」
「ウフフフ♪ 興味本位かな?♪」
 と、チョットイタズラっぽく笑うリサ、かっ、可愛い……。

 ったく、こんな可愛い娘を振るヤツが居るなんて、どんだけソイツは女の子に苦労して居なかったんだろうか? そんなコトを想いチョット恨めしく感じているオレが居ながら話を続けた。

「あっ、いや、あの……、何ていうかとにかく、こういう何か一緒にやるコトが出来たんだから、せっかくだし、仲良く成れたらイイな?って想って……、ソレにオマエ……本当可愛いしさ」
「アリガト♪ でも、大体の人はそうなの……、可愛いって言ってくれるのは嬉しくなくは無いんだけど……」
「うん……」
 ヤベッ、なんか余計なコト言っちまったか? 一瞬 焦ったオレ。

「いや、あの、本当にそういう風に言って貰えるのは嬉しいんだよ……?♪」
「そっか、良かった、オレ何か余計なコト言っちゃったかと、想って……」
「ウフフフ♪ ナオトくんって、素直だよね?」
 どうやら、地雷を踏んでは居なかったようで少し安心したオレ。

「そ、そうか? そう言って貰えると……、っていうか、でも、全部顔に出ちゃうっていう感じで、正直、世渡りとか全く上手くなくていつも失敗ばっかなんだよオレ……」
「ウフフフフ♪ でも、アタシは表面で考えているコトと、心の中で考えているコトが正反対の表向きだけイイ顔している人の方が嫌い、モノっ凄く嫌いなの、アタシそういう人」
「へぇ~~~~」
 正直、少しビックリした気持ちだった……、リサってもっと大人しい控え目な娘だと想っていたが……、話してみると、案外……、想ったコトを包み隠さないというか……、ハッキリとモノを言う娘なんだな?っていうのに、少し驚きを隠せないオレが居た……。

「オレも大の苦手、そういうタイプのヤツ」
「そっか、良かった♪ だから、アタシ……」
「ん?」
「ナオトくんみたいな素直な人と一緒に、こうやって何か出来るの……、何ていうか……、凄く楽しみにしているの……、アハハ、ブッちゃけ過ぎちゃったかな?♪」
 と、言って、ニッコリと笑っているリサ……、う~~ん、可愛いなんてモノじゃない……、眼が三日月状に弓なりを描いて、上気したほんのりと赤みを帯びた頬、そして、何より満面のスマイル……、破壊力あり過ぎるだろ……、コレで好きに成らない方がどうかしてるぜ……、そんな風にそのとき想ったオレが居た。

「で、結局アレか?」
「ん? なに?」
「オマエのルックスに惹かれる人ってのは大勢居るようだし……、実際、告られたりとか、ラブレター貰ったりとか、って、やっぱ多いのか?」
「……、うん……」
 チョット照れくさそうに、コクリとうなづくリサ、いちいち可愛いなァ本当にとか、そんなコトを想っていた。

「んでだ、でも……、結局はソレはリサの表面だけを見ているのであって、本当の意味で自分を好きに成って欲しいっていうので……、今その、色々と頑張っているっていう感じか」
「っ!?」
 少し驚いた様子のリサ。

「なっ、なんで? そ、そんなコトまでワカッちゃう?」
 驚きを隠せず思わず、そんなコトを言っている。

「うん、話聞いててそう想った、中学のときの付き合ってたヤツのコトとか、ココ最近の色んなコトに対して前向きに頑張っている、リサの姿を見ていると……」
「そっか……」
 気持ちを察しられたのを嬉しく捉《とら》えてくれたのか、少し嬉しそうな表情のリサ。

「でもよ」
「うん、なに?」
「ソレって、オレ一番イイことだと想うな?」
「本当に? そう想ってくれる?」

「おうよ……、見た目がイイから彼女に成って欲しいって言って来られてもな? 内面を好きに成ってくれなきゃ、ただのソイツん中だけの自慢みたいなモンだもんな? そんなのは「恋愛」とは呼べないって想うよ」
「うん、アリガト……、なんかナオトくんってスゴイね?」
「そっ、そうか?」
「ナオトくんは、勉強とかは……、その……そんなに……って感じでしょ?」
「アハハハ、ハッキリ言うな?」
 と、笑いながら答えるオレ。

「ゴ、ゴメン、悪い意味じゃないの……、ソレに部活動とかをしているっていうワケでも無い……」
「まァな?」
「でも、ソレなのに、何かアタシなんかには想像が付かないくらい、色んなコトを知っててワカってて、大人の人って感じがする……」
「ハハハハハ、そりゃ褒め過ぎだ♪」

 言われて、悪い気はしなかったが、このオレが大人……? 無い無い……、そんな風に想って思わずチョット苦笑してしまっているオレが居た。

「とにかく、良かった……」
「そっか」
「うん……アタシ……、アタシ、ナオトくんと、もっと仲良く成りたい……」
「ぉおぉぉっぉぉぉ、そ、そうか、そりゃ大歓迎だよ」
「うん♪ そう言ってくれると本当に嬉しい」
 そう言って上気した頬を赤らめて、嬉しそうな、さっきも言ったが弓なりに三日月状に成った明るさに満ちた瞳でオレを見つめるリサ……、何度も言うようだが、相当な破壊力のある、キュートなスマイルだ……。

「んじゃ、コレから改めてヨロシクな?」
「はい、こちらこそ、ふつつかモノですが、ヨロシクお願いします♪」
 と、言ってペコリと頭を下げるリサ。

 何て、イイ娘なんだ……、そう想わざるを得なかった……、やっぱりレミが言っていた、リサの夢の中の話……、黒い壁に閉ざされている、っていうのは……、コレまでに、色々と想い悩んで来たコトが重なって……、世の中に対して、警戒心を抱かずには居られないような苦悩を抱え込んでしまっているってコトなのかな?って想った、こんなに素直で明るくて健気《けなげ》でマジメで頑張っている娘……、ゼッタイに「悲しい想い」はさせたくない、だから、今リサが抱えているのかもしれない、そんな「苦悩」があるのなら、ソレを少しでも、少しずつでもイイから、取り除いて行ってアゲたい……、そんな風に想った、そのときのオレだった……。