【 第十六章 】

「おぃおぃ、聞いたぞ?」
 と、飯を食いながらぶしつけに言ってくる箕屋本《みやもと》。

「なにをだよ?」
「オマエとレミちゃん、ついに出来ちまったらしいな!?」
 少々興奮気味にそんなコトを言っている。

「子供が出来た、みたいな言い方をするな」
「いやいやいや、そうは言ってもよ? クラスの男子の間ではその話で持ち切りだぜ?」
 まァな……、何にせよ、レミとリサちゃんは、名実共に誰もが認めるウチのクラスのツートップ、その一人と曲がりなりにもくっついちまったってんだから、そりゃ話題に成っちまうのもワカル気がする、と、いうか、仕方無いか……、と、いうのが正直なトコロだ。

「でもオマエな?」と、オレ。
「なんだよ」
「イイことばっかりってワケでも無いんだぞ?」
「何がだよ、あのエンジェルスマイルのレミちゃんだぞ? その娘と付き合えて何が不服だってんだよっ!」
 気持ちはワカルような気がしたが…、こないだあったコトを言ってみる。

「ジェット・コースターに乗るだろ?」
「うん」
「笑われんだぜ?」
「なんだ、ソレは」
「笑われんだよ」
「なんだ、オマエらもう遊園地でデートなんかしているのか!?」
 なんとも、けしからん、と、いった様子の箕屋本《みやもと》。

「おうよ、その遊園地だよ、笑われんだよ」
「なんだ、その笑われるってのは」
「笑われんだよ」
「何があったか知らネェが、イイじゃネェか!? レミちゃんとデート! クラスの男子みんなが垂涎《すいぜん》モノだぜ」
「まァな?」
「ったくよぉ、羨ましいったら無いぜ」
 と、何ともやり切れないと、いった顔付きの箕屋本《みやもと》、確かに言いたいコトはワカルのだが……、毎晩夢の中でずっとやりとりして来たオレにとっては、今更、というのが、正直な感じだ……、ソコで、というか、こんなコトを言って置いた。

「箕屋本《みやもと》……」
 と、ミートボールを箸でつまみ口に運びながら改まって箕屋本《みやもと》の方を見るオレ。
「なんだよ……」
「オレだって、信じられネェんだよ」
「やっぱ、そういうモンか?」
「そりゃあ、そうだろ? 今の今まで、オレは彼女居ない暦=年齢だったんだぜ?」
「うん……」
「だからよ、何ていうか祝福してくれよ」
 モグモグとミートボールを食べながら、そう言うオレ。

「とは、言ってもよ~~、オマエはクラスの男子の夢を奪ったんだ、その責任をどう取ってくれる」
「なんだソレは……」
「みんながどれだけ悔しがっているか、その気持ちがワカルか?」

 まァ、ワカラなくは無いんだが……、さっきも言った通り、レミとオレは毎晩のように夢の中でやりとりをしていた……、その結果付き合う、っていうか、薄ぼんやりとだが、夢の中でお互いに「告白」のようなコトをしたっていうのを憶えているっていう感じで、イマイチ実感が無い、というか……、あんだけ喋っていれば、付き合いに発展してもオカシく無いだろう?と、いうような気持ちがあるため、今更、ソレについてツッコまれても……、と、いうのがオレの正直な感想だった。

「色々あったんだよ、コレでも色々とよ……」
「色々ってなんだよ? いつの間に、オマエらそんなトコまで仲が進展したんだよ? そりゃ1年のときは席が隣だったけどよ、2年に成ってからはただのクラスメートって感じだったじゃネェかよ」

 だから、ソレは現実世界の中のコトであって、夢の中で毎晩のように顔を付き合わせていたと、何度言えばって、まァ言ってはいないんだけど、ソレにこんな話、例え言ったとしても信じて貰え無いだろうからなァ……。

「箕屋本《みやもと》……」
 ミートボールを飲み込みながら、米をかきこみつつ、改めて箕屋本《みやもと》の方を向くオレ。
「なんだよ……」
「オレにとっても、降って沸いたような出来事なんだ、だからよ?」
「だから?」
「オマエにも、そういう可能性がゼロでは無いっていうワケだ」
「そ、そう成るのかな……」
 少し明るい顔つきに成る箕屋本《みやもと》。

「そうだよ、オレに何か取り柄みたいなモンがあるか? 目立っていたり、イケメンだったり、勉強が出来たり、運動神経が群を抜いていたりみたいな……」
「いや、正直悪いがそんなのは何も見当たらないな?」
 チョット、申し訳なさげな様子ながらも、ハッキリとそう言う箕屋本《みやもと》。

「だろ? でも、そんなオレにもチョットした切っ掛けで、彼女が曲がりなりにも出来たってぇワケだ、だから祝ってくれって言ってんだよ」
「ぉ、ぉう……、まァ一応、おめでとうと言っておくよ、オマエは貴重な友人だからな?」
「ありがとよ、オレにとってもオマエは貴重な友人なんだ、なんたって1年のとき同じクラスで喋っていたヤツが居てくれているってだけで、2年に成ってすんなりとクラスに溶け込めたのは、本当にオマエのお陰って感じだからな?」
「そっか……」
「だからよ?」
「なんだよ」
「こんな、何の取り柄も無い、その上、人見知りと来てるオレに仮にも彼女が出来たと、いうコトはだ……」
「ぉ、ぉう」
「チョットした切っ掛けなんだよ、こういうのは……、だからその切っ掛けを逃すな」
「ぉ、ぉぉう」
「オレから言えるのはそんな感じだ」
 とりあえず、夢の中の話はしても意味が無いだろうと想い、この場はそう言って置いた。

「そんなモノか」
「そんなモノだ」
 完全に納得してくれた、と、いうワケでも無いようだが、何となく自分にも……、と、そんなコトを思い巡らせている様子の箕屋本《みやもと》だったが。

「にしても、オマエはラッキーなヤツだぜ」
 まだ、羨ましいという気持ちを抑えられない様子だ……。

「まァな? ソレについては否定はしないが……」
 たまたま、ドリーム・ウォーカーだったっていうコトが幸いしてレミと毎晩夢の中でやりとりするように成れたっていうのは、普通に考えればあり得ない話であって……、ソレは本当幸運の他、なんでもない、というコトについては異論を挟む余地は無いな?と、オレ自身も感じているコトなのだが。

「今度レミちゃんとどっか遊びに行くときオレも混ぜてくれよ?」
「バカ、オマエそういうのは彼女作ってからにしろよ、ダブル・デートってんならワカルけど、オレとレミがデートしてるトコにくっついて来たって、オマエきっとそんなに楽しめ無いんじゃないのか?」
「んなコトネェよ、貴重な友人としてのメリットをオレにも分けてくれっつってんだよ」

 ったく、しょうがネェなァ……、と、思ったが……、って、果たしてこういうのは「何デート」っていうんだろうか? そんなコトをチラリと考えているオレが居た。

「考えておくけど、やっぱオマエも頑張って彼女を作れ、結局リサちゃんに告白すらしていネェんだろ? オマエ」
「そっ、そりゃそうだけどよ……」
「高校生活なんてアッという間に終わっちゃうぞ? 1年アッという間だっただろ?」
「うん……」
「んで、オレ達はもう2年生なんだ、オマエあのリサちゃんと2年間連続で同じクラスなんだぞ? その「地の利」を活かさないでどうするよ、そのデートにくっついて来るってのもイイが、とりあえず、何か行動を起こしてからにしろ、ソレでダメだったら、オレとレミでオマエの残念会くらいやってやるよ」
「おぉぉぉぉぉお、マジか!?」
「うん」
 とりあえず貴重な友人だからな? ソレ位のコトならイイか、と、想わなくも無いのでそう言って置いた。

「じゃ、お、オレ、リサちゃんと!」
「そうだ、その意気だっ」
 と、そのときは、励ましてはいたのだが……、後々、チョット、そんなコトを言ってられないようなコトに成っていく、と、いうのを、このときはオレも箕屋本《みやもと》も全くワカッテは居なかった……。

「でもよ、とにかくよ」
「うん、なんだよ?」
「何にせよ遊園地には、もうゼッタイに行かないからな?」
「なんなんだよ、ソレさっきから……」
「笑われんだよ」

「何があったんだよ、だからソレ……」
「いんだよ、とにかくアイツと遊園地に行くとよ……?」
「うん……」

「笑われんだよ……」