【 第十四章 】

 晴れてカップルと成ったオレとレミ、それから少し経った頃のコト、レミがこんな提案をしてきた。

「どっかに遊びに行こ―っ♪」
 と、いうワケで放課後の二人…。

「さて、何処に行くか? 正直、デートってしたコトネェからよ? 何すりゃイイんだ?って感じなんだが……」
 と、少しコンプレックスを隠すようにして、改めてそう口にするオレ、夢の中では毎晩色んなコトをして遊んだりはしているモノの、この現実世界でレミとどっかに出掛けるっていうのはコレが初めてのコトだったからだ。

「遊園地行こっか?♪」
 と、上機嫌な様子のレミ。
「遊園地か……、ま、ソレはイイとして、オマエ、その様子だと期末テストの出来が良かったみたいだな?」
 チョット、突っ掛かるようにそう言うオレ。

「うん♪ 狙ったトコばっちりだったっていう感じ」
「オマエ、まさか夢の中でテスト作ってる先生の頭の中を覗いたりしたんじゃ無いだろうな?」
「ぉう、その手がありやしたか♪」
 と、ケタケタと笑っているレミ、ま、さすがにそんなコトまではしないか。

「卑怯なり」と、冗談っぽくツッコんでみるオレ。
「してないってば、そんなコト……、実力よ、じ・つ・りょく♪」
 偉く、上機嫌だな? ソレに比べてオレは、と、いうと……、いつものごとく……、来週返却されるであろうテストの点数を想像して、どうにも浮かれた気持ちには成れないで居るのが正直なトコロだ……。

「ね♪ そんなコトよりさ、つまんないコトは忘れて、パァ~っと行こうよ、パァ~っと♪」
「おう」
 ま、イイ提案ではあるな? そう想い、テストの点数のコトはひととき忘れて、レミとの、と、いうか、初めての「デート」ってぇのに、いそしんでみようと気持ちを切り替えた。

「んで、なんだ? 遊園地でイイのか?」と、オレ。
「うん、ライドパーク行ってみたくて」
 そっか……、レミは、3年間引き篭もって居たんだもんな? きっと、こういうのも久しぶりのコトなんだろう?とか、チョットそんなコトを思ったりした。

「あっ、今、アタシが引き篭もりだった、とか、そんなコトを考えてたでしょ?」
 うっ、鋭いツッコミ……。
「ぇっ、いやっあのっ!」
 動揺を隠せず、思わずそのままの態度が出てしまう。

「うん、もぅ……、ま、でも本当のコトだからしょうがないか」
「久しぶりなのか?」
「うん……、小学校のとき行って以来」
「そっか、じゃ、なんていうか、今日は思う存分楽しむかっ!」
「お――――う♪」

 と、いうコトで「ライドパーク遊園」にやってきたオレ達。
 色々とアトラクションはあるようだったが、やはり「遊園地」の定番と言えば「ジェット・コースター」まずは景気付けにと、いった感じでそのジェット・コースターから乗るコトにした。

「オレも久しぶりだぜ? 家族に連れられて小学校のときに来て以来だからな?」
「なんだ、じゃあアタシと一緒じゃん、思いっきり楽しもうね? 今日は♪」
「おう!」

 とか、何とかそんなやりとりをしているウチに、動き出すコースター、ガンガンガンガンガン……、と、いう音を立てて、段々と上へ上へと登っていく……、いやがうえにも緊張と期待感が高まる……。

「ひょえ~~、高ぇなァ? コレこんな高いトコまで上がってたっけ?」
「アタシも驚いている、小学校のときは、もっと簡単な感じだったような憶えが……」
「ひょっとして、チョット観ない間に改良されてパワー・アップされてんじゃネェだろうな?」
「そうかもね?♪」
 などと、言ってカラカラといつもの極上スマイルでオレの隣で笑っているレミ、その笑顔はいつもながらにステキで良かったのだが、その笑顔の向こうに広がっていく水平線やら何やら、どんどん見えてくる遠い景色……、正直、その「高さ」に、何ていうか底知れぬ「恐怖感」のようなモノが次第に膨れ上がってきているオレが居た……。

「お、お、おぃ……、なんかコレ、スッゲェ高くネェか……?」
「みたいだね♪」
 レミは至って、平気の様子だ……、に、比べてオレはと、いうと……「やべぇ……、まだ走り出してもいないのに、既に心臓が口から飛び出して来そうだぜ……」とか、そんな焦燥感に包まれていた……、そして……。

「あっ、頂上に着いたよ? そろそろだね♪」
「ぉ、ぉぉっぉおう……」
 声に成らない声を発し、コレから始まるであろう、ジェット・コースターの疾走に備えるオレ……、ガガン……、少しそんな音がしてから、オレ達の載っているコースターは……、奈落の底へと落ちて行くような感じで急角度の線路の下へと加速しながら滑り落ちて行った……。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 思わず、そんな叫び声をアゲてしまっているオレが居た……。
「キャァアアアアアアアアア!♪」
 とか、言いながらも、何処か楽しげな音色を含んでいるレミの声、正直、オレには、そんなレミのコトを気に掛ける余裕など何処にも無かった。
 ガ――――――――ッ! と、モノ凄い勢いで走っていくコースター、右へ左へと急角度に曲がり、その度に振り落とされるように成る程、身体にGが掛かる。

「たぁああすけてくれええええええええええええ!」
「アハハッハハハ♪」
 そのオレの様子を観て、横でケタケタと笑っているレミ、「なっ、なんてヤツだ、コイツは……」こんな、生と死の紙一重みたいな状況でケタケタと笑っていやがる……、ガガン、ガン、ガガ――ン! そんな音を立てながら上へ下へとフルスピードで駆け抜けて行くジェット・コースター、正直、眼を開けているコトすら出来なかったのだが……、終盤に差し掛かり少し落ち着きを取り戻しつつあったオレは薄目《うすめ》でその先を見て驚愕した……。

「おぉぉっぉ、おぃ! なんか、輪っかを描いているのが見えるぞ、まさかアソコにツッコむんじゃないだろうなァっ!?」
「わっかんなああああああああい!♪ ワッハ――♪」
 何処までも上機嫌のレミ、勘弁してくれ――、ココまででも充分、振り落とされるような恐怖で、心拍数が上がるとかいうレベルでは表現出来ない程の、まるで生と死の境をさまよっているようなそんな地獄を、この身体に重くのしかかる、右に左へと揺れるコースターのGから肌に感じている状態だっていうのに……、まさか、とは、思うが……、観る限り、オレ達を載せているジェット・コースターは、その宙返りを繰り返すような線路に向かって、一部の迷いも見せず突き進んで行くようだった。

「たぁあああああああすけてくれええええええっ!!!!」
 思わず、そう叫ばずには居られないオレが居た……っ!
「大丈夫だよ――――ぉ!♪ ワッキャ――――ッ!♪」
 コースターのスリルを存分に楽しんでノリノリのレミ、ちきしょー、何でこんなのが平気なんだ? コイツには「三半規管」ってモンが存在していないのか?とか、そんなコトを想いつつ恨めしげな眼で、そのコースターがツッコんでいく先を見る、どう観ても回転しているよな? アレ――っ! そして、間もなくそのコースターは、円を描いている線路の部分へと飛び込んでいった!

 グァ――――――――ッ! コレまで以上のGが掛かり、天と地がひっくり返る……。

「死ぬ! 死ぬ! 死ぬ――――――――っ!!!!」
「キャ――――――――ッ! サイコ――――――――ッ!!♪」
 レミにとっては、この上下さかさまに成って疾走していくという、通常世界ではあり得ないようなそのときの感覚が楽しくて楽しくてしょうがない、という状態らしかった、信じられん……っ、ガガガガ――――ッ! ガアア――――! 尚も疾走するコースター。

「はっ、早く終わってくれ……、頼むから早く……っ!」
 そんな聞き取るコトが出来ないような声で懇願するように、そう天に向かってつぶやいているオレ……。

 ガガガ――、ガ――――ン、ピ――――――――ッ! 再び停留所と成っている、スタート地点に無事停車したコースター。

「ふっ、ふ……っ、ふ――――っ…………」
 ど、どうやら、ようやく……、終わってくれた……ようだな…………。

「アハハハハハハハハハハ♪」
 観ると、オレの方を見ながら大爆笑しているレミが居る。
「なっ、なんだよっ!」
 と、いまだフラフラする身体をやっとの想いで律しながらそう返すオレ。

「ナオトくん……♪ メッチャメチャ恐がってるんだもん……っ♪ おっかしくておかしくて♪」
「おかしかネェっ!!!! 死ぬかと想ったんだぞっ!」
「アッハハッハハッハハ♪」
 まだ、大爆笑しているレミ、ったく、コイツ、意外とSなトコロがあるんだな? そんな風に想ったオレが居る。

「大丈夫に決まっているのに、あんなに恐がってるんだもん♪ もう……、ジェット・コースターも良かったけど♪ ナオトくんが悲鳴をアゲているのが横から聞えて来てオカシくてオカシくてしょうがなかった……、ハァ~~、もぅ最高っ♪」
 腹を抱えてまだ笑っているレミ。
「なんだよ、オマエったくよぉ、人が恐がるの観て何が楽しいんだよ……っ、んとによ……」
「もぅ、怒んないでよ♪ だって、メチャメチャ恐がってるんだもん、も、オっカシくてしょうがなかったァ……♪」

 ったくコイツ……、二度とコイツとは一緒にジェット・コースターには乗らん、そう心に誓った、そのときのオレ……。

「ハァ~もぅ♪ こんなに楽しいのに、なんで、あんなに……、途中眼ぇつぶってたでしょ? もぅ…、本当に超~~恐がってる~~とか想って面白くてしょうがなかった……っ♪」
 と、今さっきのオレの恐がっていた様子を想い出し、ソレが改めてツボに入っているらしく、尚も笑い捲くっているレミ。

「もぅ! イイ加減にしろっ! 本当に恐かったんだよっ! ゼッテェもう二度とオマエとはジェット・コースターには乗らネェからなァっ!!」
「ワカッタよ、もぅ……♪ でも、本当…、あんなに恐がる人なんて初めて見たかも、アハハッハハ……っ♪」
 そう言って、まだ笑うのを堪《こら》えられないで居るレミ、ゼッタイに乗らん、ゼッタイに二度とコイツとは一緒にジェット・コースターには乗らん、いやもう「遊園地」すら来るべきじゃないのかもしれん? チラッとそんなコトを頭に想い描いている、そのときのオレだった……。