【 第十三章 】

「ステッパー?」
 レミの言う聞き慣れない言葉に、何だ? ソレは、と、いった感じの反応を返すオレ。

「そう、アナタの中にある簡単に言うと、アナタがアナタの周囲の人達に対する影響力に当たる部分」
「ソレもまた、無意識下に備わっている力とかなんかそんなヤツなのか?」
「うん……、誰もが持っている力なんだけど……、アナタのステッパー領域は普通の人より遥かに強くて大きい部分を占めているの……」
 小難しい話を極力「平易《へいい》」な言葉で説明するレミ。

「オレに……、そんな力があるなんて……」
「アナタは気付いて居ないだけ……、前にも言ったけど、ほとんどの人はその力に気付かずに一生を終えるコトが多いの」
「ソレが……、夢の中を渡り歩く力に成るっていうのか?」
「うん……、幸運にもというか、アタシにもそういう力があるって気付いたのは小学生の頃……」
「随分、早い段階でそんなのに気付いたんだな?」
「うん……最初は良くワカラなかったけど、あるとき気付いたの……、自分とは余りにも掛け離れた内容の夢……、そういうのをときどき観るコトがあったから……」
 少し、その頃のコトを想い返すように静かにそう説明しているレミ。

「で、ソレが、自分のでは無く、他の人の夢の中だって気付いたのか……」
「そう……、ソレで、身近な人から始めて……、その内に段々とその距離を広げて行くみたいな感じで……」

「ちなみに、今はどの位、遠い人の中に入り込めるように成ったんだ?」
 話が核心に近づいているコトを感じ、思い切ってそう質問してみた。

「ほとんど世界中、夢の中だから意識疎通みたいなのは出来るんだけど、全く知らない文化圏・言葉……、そういう人達の夢の中も何度か観るコトが出来たから……、おそらくもう……、世界中の人の夢の中に入れるんじゃないかな?って、今はそう想っている……」
 すぐには信じられないような話だが……、とにかく、そういうコト何だろうな?と、思い聞いていた……。

「で、ドリーム・ウォーカーだってワカッタ訳だ……」
「そう……、明らかにアタシが知るはずも無いような夢を良く観るように成っていたから……」
 その頃のコトを思い出しているのか、どうかはワカラナイが……、チョット物憂げな表情でそう語るレミ……。

「あんまり、嬉しく無さそうだな?」
「……」
 オレには想像も付かないような「夢の中」を、その眼にして来たのか……、観たくは無かった夢も観なくては成らなかったと、そういったコトがあったのか……、少しの間、押し黙るレミ……、そうして少ししてから、また重い口を開くかのように話し始める……。

「うん……、人の深層心理って……、結局は、どんな人も最終的には、自分のコトばかり……、世の中ってこんなに「自己中心的」な人で占められた世界なのか?っていうのが段々とワカッテ来るにつれて……、まだ子供だったアタシには……、どうしてイイのかワカラなく成っていたの……」
 そう寂しげに語っている。

 まァな? 高校生に成った今……、オレもそんな風に感じているコトが多々ある……、純粋無垢だった子供の頃には起こり得なかったような「いさかい」が日常あちこちで起こっているし……テレビのニュースの内容を理解出来るように成った今……、どのチャンネルを観ても、何ていうかそのほとんどは「暗い内容」を伝えるニュースばかりだ……、この世の中に「叶う夢」なんてのを信じているのは、ほんの一握りの「能天気な性格の持ち主」か若くして「自分の才覚」に目覚めたごく稀な人物にとってのみが持ち得る「明るい展望」で……、一般のごく普通の凡人にとっては「夢」なんてぇのは、ソレこそ本当にただの「夢物語」で終わってしまうモノ……よくそんな風に想っているオレが居るのは確かだから……。

「で? オマエは……、その、人の夢の中を渡り歩くっていうのを、何で続けたんだ? どこ見ても「自己中な人」ばかりでイヤな気持ちに成って居たんだろ?」
「うん……、そうなんだけど……」
 ソコで、またレミは何かを思い返すように口を閉ざした……。

 子供の段階で世の中に幻滅するような、世界中の「人の深層心理」を垣間見てしまったんだ……、ショックを感じても不思議じゃない……、今のオレにとっても、世の中で起こっているコトのほとんどは……、何ていうか「関わりたくない」、そう感じてしまうコトの方が多いから……。

「だけど、こう考えるように成って行ったの……」
 レミは、思い返していた記憶を頼りにするかのように……、打ち明けるようにその言葉を口にした……。

「アタシは人の夢の中を観るコトが出来る……、だとしたら、その夢に対して何らかの影響を与えるコトが出来るんじゃないか?って、そうしたら、少しずつかもしれないけど……、暗い気持ちで覆われている人の心を「明るい気持ち」に変えて行くコトも……、もしかしたら可能なのかな?って……」

 随分と大胆な話だ……、とも、思ったが……、小学生にしては大分思い切った考えに行き着いたモノだな、と、チョット感心するような気持ちでその話を聞いていた……。

「ソレで……、人の中にある「悪い部分・暗い部分」に眼を背けないで、そういう夢も正視していくようにしていくウチに……、共通するキーワードみたいなモノが、色んな人の中に根付いているのがワカッテ来たの……」

「キーワード?」

「そう……、表向き明るい夢を観ている人でも、深層心理では闇を抱えていたり、そういう人って良く居るでしょ?」
「うん……」
「その人達は、自分でそう成ったんじゃなくて……、誰かワカラナイけど、とにかく外部の力で、そういう部分を増幅させられている……、そういうのが見えて来た……」
「ソレが……?」
 オレは、一生懸命語り続けるレミに一歩踏み込むように、そう聞いてみていた……。

「そう……、オブストラクト・ワイリー・フラウ……、何かに悲しんだり、色んなコトに躓《つまづ》いていたり……、世の中に対してネガティブな想いを抱いている人の潜在意識には決まって、その言葉が刻まれていた……」
 聞いていて、理解に苦しまないワケでは無かったが……、大体言わんとしているコトはワカル気がしていた……。

「要は、潜在意識に入り込んで、そのワイリーなんとかっていうのが……」
「そう……、暗躍しているっていうのが……ワタシにはワカッテ来たの」
 少し悲しそうに、ただハッキリとレミはそう言った……。

「どの世界にもそんなのがよく、後ろで糸を引いているって聞くが……」
「うん……、何ていうか……、インターネットにもウィルスをばらまく人が居るように……、夢の世界でも、そういうコトをしている人が、一人か二人か、ソレか組織的にかまではワカラナイけど…、とにかくそういう動きがあるコトがワカッテ来た……、だから……」
「オマエはそういう連中を……」
「うん……、誰かが、ソレを食い止めて行かなくちゃって……、そう、想ったの……」

 レミとはコレまで色々な話をして来たが……、正直、言葉に成らなかった……、子供の頃からどうやらレミは、夢の世界にはびこっているウィルスみたいなのをバラ撒いてる連中に……、たった一人…「宣戦布告」を始めた、と、いうワケだ……、信じ難い位に正義感に満ち溢《あふ》れた行動だとは想うが…、随分と大胆な決心をしたモノだと……、そのときのオレはそう……感じるのが精一杯だったが……。

 その後も、毎晩のようにレミと話をしているウチに……、少しずつでもレミの手助けに成れるコトが無いか?と、いったコトを想うように成り……、気が付けばオレも……、夢の中でのレミとワイリー・フラウ達の戦いへと、その身を……投じて行くコトに成っていったのだった……。

 そんなやりとりがあった後《あと》、と、ある日の夜の夢の中……。

「この人が、その……」
「そう、ワイリー・フラウに汚染されている人……、チョット突つくと、その正体を現すわ」
「んで、その連中と……」
「うん、ワタシは闘って居る……、ナオト君程のまぶしい光の力を持った人が力を貸してくれれば、こんなに心強い味方は居ないわ?」
「ワカッタよ……、そうまで言われちゃ黙って居られネェ」

「来るっ!」
 その夢の主の姿が一人の魔物の姿へと変貌する。

「行くわよっ!!」
「おぅっ!!」
 その日から、オレはレミと連れ立ってワイリー・フラウとの戦闘に身を投じて行ったのだった。