特に話をする訳でもなく、優しい手繋ぎのまま、ヒロ君に誘導されたお店は喫茶店だった。

「お、……美味しいですね、グラタン」

「だろ?ここのは最高なんだって。ガキの頃によく来たんだ……」

うちのマンションから少し離れた路地裏に、小さな喫茶店があったなんて知らなかった。

私は熱々のグラタンを大口あけないように気をつけて、食べているつもり。

男の子と二人で外ご飯なんて、初めてで緊張しまくり。

「ヒロくんもイケメンになって、こんなに可愛い女の子連れてくるなんてねぇ……」

喫茶店のマスターが、しみじみと語る。

「数年前はお母さんから離れなくて、甘えん坊な男の子だったのにねぇ、今じゃこんなに……」

「マスター、何年前の話してるんだって。今はれっきとした“男”だって。……もう、ガキじゃないから」

私は二人の会話を熱々のグラタンをほうばりながら、眺めるだけ。

話を聞いた限りでは、二人は昔からの知り合いのようだった。

「食べたらさ、買い物付き合ってよね。カナミちゃんを捕まえた理由も教えるから……」

「……はい」