「……ったく、カナちゃんには叶わないなぁ。可愛い、可愛い!!」

対馬さんが『可愛い』と言って、興奮が冷めない真っ赤なままの私の頭を撫でてくるけれど……

ヒロ君に見られたくなくて、対馬さんの手を払い除けてしまった。

いつもは心地よくて、優しくされて嬉しかったけれど……

今はヒロ君が目の前に居るから、嫌だ。

脳裏には、とっさに……対馬さんとの関係を勘違いされたくない、と言う考えが浮かんだから……、嫌だったの。

ヒロ君には彼女が居るから、どうこうなるとか無いのにな。

―――そう分かっていても、ほんの少しでも期待している自分が居て……

育ち始めた恋の芽を取り去る事は出来そうもない。

「……カナちゃ、……いや、何でもない。じゃあ、ヒロ君には書類に印鑑押して貰いたいから、バイトするなら今度持って来てね」

……そう言うと、カタン、と静かに立ち上がり、椅子から体を離した対馬さん。

今、一瞬だけ……、凄く暗い顔をしたような気がするのは気のせい?

俯き加減に一瞬だけ、目を瞑って……軽い溜め息をついた様な気もする。

私が手を払い除けてしまったせいかな?

「じゃあね、カナちゃん。俺、まだ仕事あるから戻るわ……。あ、夜は福島が来ると思うから……」

ヒラヒラと手を振って、部屋を出て行こうとする対馬さんは……やっぱり、どこか違和感があって仕方ない。

いつもの対馬さんじゃなくて……、背中に哀愁の影があるような、そんな感じ。