対馬さんはパニック状態の私を見て、クスクスと笑っていた。

私だって、夢見る乙女になる時もあるもん!!

戦いシーンばかりを頭の中でイメージしている訳ではなくて……、女の子らしい“乙女ちっく”な想像もしたいんだもの。

バイトをして、彼女にプレゼントをあげたい位、大好きな彼女が居るから……叶わない恋だって分かっているつもり。

―――だからこそ、頭の中でだけは恋をしていたいの……。

ご主人様と家政婦さん……、そんな関係でも、一緒に居られるだけで幸せだよ。

恋をしたいけれど、多くは望まないよ。

傷付くのが怖いから―――……

「カナちゃんさぁ……、恋をしてるみたいだね。だから、ヒロ君に接触出来たんだね……」

フッと笑う仕草をしたかと思うと、悩んでる私の頭を再度、撫でてきた対馬さん。

優しかった手は次第に髪の毛をグリグリと掻き回し、私が『やめて』と声を出そうとした時……、背中に衝撃が走る。

「……いたぁっ!!」

対馬さんに背中を平手で叩かれたのだ。

ジンジンと痛みが集中して、……手のひらの紅葉が出来ているかと思う程。

「カナちゃんが嫌ならさ、漫画家だって事は隠せばいーじゃない?ね?」

「……う、うん」

背中に衝撃を与えるように叩いたくせに、ヘラヘラと笑っている対馬さんに少し苛立ちを感じた。

……対馬さんの馬鹿っ!!

「カナちゃんが嫌ならさ、OLって事にしといたら?……ご飯作りや買い物だけなら、バレないでしょ?掃除は部屋に入るから危ないけど……。明日、面接に来たらさ、適当に誤魔化しておくからね。

……さてと!!原稿、原稿!!ちゃちゃっとやっちゃいましょうねー、カナちゃん」

「……はぁい」

ヘラヘラ笑っていた対馬さんは、長々と話した後に柔らかに笑って……消しゴムを持って、下書き消しを再開した。

対馬さんは私自身の事を親身になって聞いてくれて、いつも助け船を出してくれる。

それに……原稿と向き合い、下を向いている対馬さんの顔は睫毛が長く目立ち、女の子顔負けの綺麗さ。

本当のお兄ちゃんだったら、皆に自慢しちゃいたいよ。

心からそう思うよ。