胸の鼓動が跳ね上がり、うるさい程にヒロ君に響いていただろう。

抱き締められると安心する、初めて知った温もり。

このまま、時が止まれば良かったのに……

現実は甘くない。

「……帰ろうか?」

胸に頭を埋めていて、閉じていた目を開ける。

ヒロ君の一言で、今の瞬間は夢だったかのように現実に引き戻された。

ボンヤリと周りを見渡せば、横目で見る人達や足早に通り過ぎて行く人達。

決して、私達だけの世界では無かった事、夢では無かったのだと、思い知らされる。

“さよなら”だね、ヒロ君。

神様、最後に私に勇気を下さい……

少しだけ、少しだけで良いから―――……

確実に“さよなら”が近づいてるのに、自分からは何も話せなくてもどかしくて仕方ない。

何で、こんなに引っ込み思案の意気地無しの性格なんだろう?

自問自答ばかりが頭に浮かんで、ヒロ君との会話が何も浮かばない。

本当に駄目だな、私は。

「じゃあ、今日は有難う……」

もう泣きたくないよ。

強くなりたい。

今度、もしも会えたなら、“運命”だと思う事にするよ。

そしたら、まずは友達にならせて。

友達の次は……恋しても良いですか?

「あ、ちょっと待って……ヒロ君、バイト探してたでしょ?ココに電話してみて。結構、高い時給だから……あ、怪しいバイトじゃないから……」

私はバッグから手帳を取り出して、そそくさとメモを書いてから破き、ヒロ君に渡した。

「……サンキュー。今日は本当に有難う。迷惑かけてごめんな……」

帰り際もヒロ君が申し訳なさそうに謝るから、私は首を横に振った。

もう謝らないでよ。

私はデートみたいで楽しめたよ。

いつかまた会えますように……

祈ってるよ。

バイバイ、“好きになりかけた人”―――……