ヒロ君は何故か、プレゼントを買わなかった。

『買わなくて、良いのですか?』
と聞いたら、ニッコリ笑って頷いただけ。

私達は、店員さんから品物を受け取り、ジュエリーショップを後にした。

「……つけて帰ったら?」

上質な、小さい紙袋に入っているネックレスを指差してヒロ君は言った。

「あ、いえ、今日は……」

「そう?似合うのに……」



ヒロ君……

その言葉と笑顔は反則だよ。

初めて会ったのに、胸が締め付けられて痛いよ。

一緒に歩いているけれど、もう帰り道なんだよね?

柔らかだった春風が、夕方になった今は冷たく感じられた。

「肌寒くなって来たね……」

「……はい」

会話が途切れてしまい、もう、お別れの時間だと気付かされる。

泣きたくないのに涙が込み上げてきて……今にも零れてしまいそう。


ほら、笑え。


泣くな、泣くな。


上を向いて……ニコッてするだけで良いんだから。

ポロリ……。

頬を伝う、僅かな冷たい液体は……

涙。

一緒にエビグラタンを食べて、ヒロ君が私に気遣いながら話してくれて、 開き出した私の心。

恋心になる前に、消さなければいけない気持ち。

そして、何よりも、ヒロ君とは今日限りで会えない寂しさ。

全てが集まり、流れ出した涙。

「……カ、ナミちゃん?」

ヒロ君が慌てふためく。

目を丸くして、目が泳ぎ始めて……空を見上げて、長く息を吐いた。