裕貴君が満面の笑みを浮かべる。私の顔は更に熱くなり、ゆでダコみたいになる。

「海大には内緒だよ。海大には高校に入学したら会いたい女の子が居たんだって。その子にカナミちゃんの雰囲気とかが似てるって言ってたんだ」

「そ、そうなんですか……」

確かに出会った時に、好きな女の子に雰囲気が似ていると言われた。あの時はショックでしか無かったけれど、今は側に居られるだけで嬉しいから、その件は心の中に封印していた。

「一時期、海大は荒れてた時期があって、自暴自棄になってたと言うか……。カナミちゃんに会ってから、少しずつ以前の海大に戻ったんだ。会いたかった女の子に会えなかった事を悔やみ、家庭の事情もあって、海大は落ち込んで……、いて、……わぁ、み、みひろ……!」

「裕貴はまた余計な事をベラベラと!」

二人で話し込んでいたらヒロ君が裕貴君の後方から近寄り、ゲンコツをした。

「か、カナミちゃんだって……海大の事を知りたいだろうと思って……!」

「だからって、お前から話す事じゃないだろ!俺が今日、全てが終わった後に話そうと思ってたのに……」

「ごめんって……!」

「バス、もうすぐ出るから早くしろ!」

バツ悪そうにヒロ君は早足で歩き出す。私の手をそっと取り、私を置いてきぼりにしないようにして。昨日の冷や汗が出始めた時から、歩く時、電車やバスに乗る時、例え座って居たとしても、多少なりとも他人が居る場所では必ず手を繋いでくれている。私は安心して身を任せている。男の子だけれど、やっぱり、ヒロ君は落ち着くんだよね。

ヒロ君の行きたい場所に辿り着いた帰り道には、私も真実を伝えよう。漫画家だって事はバレたけれど、高校時代の事など……二人なら受け入れてくれると思うから───……