……対馬さんは私の事を好きなの?

今まで一番近くに居てくれた男性だったのに、気付かなかった。

海辺の波が私の胸の高鳴りをかき消す様に音を立てている。一人ポツンと残された私に気付いた裕貴君が、

「カナちゃんって、もしかして漫画家さん?」

と聞いてきた。

私とヒロ君はストレート過ぎる問いに思わず目を丸くする。

裕貴君にも、勿論、まだヒロ君にだって正体を明かしたはずは無いのに……一体どうして知っているの……?

「福島さんが会った時からずっと先生って呼んでるし、奏でる心でカナミって書くんでしょ?……だとしたら、海大がいつも読んでる漫画の作者と共通するな、って思っただけなんだけどね!……で、福島さんにも聞いてみたけどはぐらかされたから、コレは絶対そうだなって確信した。だから、カナミちゃんに直接聞いてみたんだ」

「あ、えっと……」

私は返答に困り、喉に言葉が詰まる。漫画家だと正体を明かせたら、どんなに楽だろう。この二人が私の正体を言いふらす事はしないだろうけれど、私はヒロ君がどう思うかが怖かった。

私が少年漫画を描いている事を軽蔑したりしないだろうか……?小説や漫画は自分の全てをさらけ出して書(描)いているからこそ、正体がバレた時には恥ずかしいのだ。

中でも高校時代の同級生には絶対に知られたくない。仲良くも無いのに利用されたり、馬鹿にされたりもするかもしれない。

自分が漫画を描いている事を誇りに持っているが、他人に知られる事はまた別な事。