ヒロ君は、バスを降りると私の手首をそっと掴んだ。

恋人でもないし、ましてや友達でもないし、さっき会っただけの関係。

迷子にならない為だけの手首繋ぎ。

手首に触れるヒロ君の手が熱くて、優しい。

普段ならば拒否反応が何度も出そうなのに……繋ぐ事に慣れて、心に余裕が出来たのか……私の胸は、終始ドキドキしまくりだ。

何年ぶりに人の手を暖かいと感じただろうか?

「ココ、なんだけど……一人じゃ入りにくくて……」

ドキドキしてる私の心なんて気にもせずに、着いたのはブランドのジュエリーショップ。 ズキン……。

さっきまで、ドキドキとしていた胸は、突然にズキズキと早変わりしていた。

誰かにプレゼントするんだ?

そうじゃなきゃ、ジュエリーなんて選ばない。

恋をする前に消えかけている想いは行き場のないままに、痛みの強い傷痕へと変化しそうだった。

「ずっと、ずっと……大好きだった彼女に、何かプレゼントしてあげたくてさ、ごめん……連れ出したのは、そんな理由。そしてさ……」


“ずっと、ずっと大好きだった彼女”


―――そうだよね、カッコいいもん……彼女が居て、当たり前。

本気で好きになる前に知って良かった。 「カナミちゃんが彼女に似てるんだ……雰囲気とかね。だから、好きな系統も一緒かな、って思ってね」

物事には、必ず理由がある。

例えば、それが自分に対して理不尽だとしても、真実は必ず一つ。

最初から、ヒロ君とは運命でも何でもなかった、ただそれだけ。

やっぱり今日一日で“さよなら”なんだね。

「あ、ちょっと……!?」

固まるヒロ君の手首を掴み、ジュエリーショップの中へと入る。

「……選び、ましょ」

掴んだ手首から、ヒロ君の熱が伝わる。

「もう、いいのに……無理、しないで」

「無理、して、ないからっ……大丈夫」

口角をキュッと上に上げて、笑ったように見せかける。

笑わなきゃ、ヒロ君が自己嫌悪に陥ってしまうから―――……