ヒロ君は「おいで……」と言って、手を引っ張った。

初めて会った時みたいに怖くなかった。あの時みたいに手首ではなく、手の平と手の平を合わせて手を繋いだ。

「落ち着いた?」

本屋さんの横にあるカフェに入った。私の顔はぐじゃぐじゃで化粧も取れていると思う。ウォータープルーフのマスカラだから、さほどパンダ目にはなっていないとは思う。

バッグからハンカチを取り出し、涙を拭く。

「やっぱり怖かった?」

「……ち、違うの。怖かったんじゃなくて……えっと……」

「………?」

「わ、たし……人に優しくされるのに…慣れてないから、嬉しくて……つい泣いてしまいました。ごめんなさい……」

「……カナミちゃんは感情が豊かなんだね。俺、カナミちゃんが思ってる程、そんなに優しい人じゃないけど……」

あ、やっぱり思った事を口に出したのが不味かったかな?何でも伝えれば良いってものでもないんだな……。ヒロ君の表情が困っているような気がした。

「……カナミちゃんが人は怖くないんだと思えるように、出来る限りの事はするよ」

ヒロ君は優しく微笑んだ。注文していたアイスカフェオレと紅茶が届いた。ヒロ君はアイスカフェオレにガムシロップを一つ入れて、ストローでクルクルと掻き混ぜた。私も暖かい紅茶を一口、口に含んだ。ダージリンの良い香りが漂っている。

「カナミちゃんは本当に紅茶が好きだね。流石、お嬢様って感じだなぁ」