高校のジャージなんかを取り出してきて恥ずかしいけれど、ヒロ君が風邪を引くよりはマシだ。

ジャージを差し出した時に驚きでヒロ君の瞳が真ん丸になったけれど、それは私がジャージを用意した事に驚いた訳ではなかった。

「有難う、カナミちゃん。有難く使わせて頂きます!」

「すみません、こんなものしかなくて…」

ヒロ君は笑顔でジャージを受け取ってくれた。

私は高校時代、ぽっちゃりしていたので男女兼用のLサイズを着ていた。ヒロ君は細身だけれど、身長があるからLサイズで丁度良いかもしれない。

「実は俺もこのジャージを着てたよ」

「そうなんですね……」

ヒロ君がこのジャージを着ていた?

……と言う事は同じ高校出身みたいだ。偶然ってあるもんだ。ヒロ君はジャージを見ては懐かしんでいた。私は『そうなんですね……』に続く言葉が見つけられずにいる。

同じ高校出身と言う事はとても嬉しくて喜ばしい事なのだが、途中で逃げ出した私は素直に喜べなかった。

卒業していれば、高校の話題で盛り上がったかもしれない。私は卒業まで辿りつけなかった為、墓穴を掘ってしまう可能性があるので話題を拡げられなかった。

通信制の高校からの手紙でヒロ君は薄々は気付いているかもしれないが、素性がバレてしまうまで時間の問題だ。