「おじちゃん、ごちそうさま!!伝票来てないんだけど?」

「おっ、ヒロ君、もう帰るの?ゆっくりしてって欲しかったのに……。お金は要らないよ、その変わりにまた来てよ」

マスターはヒロ君の声が聞こえて、料理を作る手を止めて、レジに顔を出す。

「……お金は払うって」

「いいから、いいから。ヒロミさんにもよろしく伝えてな」

「……マスター、ヒロミさんは死んだんだって。何回も言ってるじゃん?」

「また……そんな事を言って!!とにかく、お金はいらないから、また顔見せに来なよ。お嬢さんも来てよ。仲良くな!!」

マスターはヒロ君の背中をバシバシと何度か叩き、ドアを開けて外に誘導する。

私はただ着いて行き、帰り際に『美味しかったです。ごちそうさま』と伝えた。

初対面の人と接するのが苦手な私には精一杯の御礼だった。

ヒロミさん……?

マスターとの別れ際、外で二人で何やら話していた。

気になるけれど、出会ったばかりのあなたには踏み込めない。

いや、私は意気地無しだから、出会いを重ねても聞く事なんて出来ないハズ、

なのに……

何で?

図々しくも聞いてしまったのだろう?

「ご、……ごちそうさまでした!!」

「……御馳走したのは、マスターだし、俺じゃないし……」

グラタンを食べに行くまでは歩幅を合わせてくれていたのに、喫茶店を出てからは手は繋いでいるものの、早歩き。