「いってきます」


翌日の午前十一時。
おじさんはお昼に漁港市場の食堂に来てと言っていたけれど、約束の時間よりも少し早く身支度を整えた私は家の中に向けそう言うと、一人で家を出た。


「あっつ…」


カンカンと照りつける太陽の光に目を細め、自転車にまたがる。
そして家の前の通りから裏道に抜けると、力一杯ペダルを漕ぎだした。

漁港までの近道になる細い裏道は、少し傾斜がかかっていて普通に進んでいくとスピードが弱まって遅くなるし余計に疲れる。

だから気を抜かず、足に力を入れながら自転車を走らせた。


見上げた青空は目にしみるほど痛く、ものの数分で額には汗が浮かんでいた。
ジリジリと肌が焼かれていくような感覚。

夏本番の猛暑という言葉が相応しい、そんな日だった。


関東と関西圏の中央に位置する、ここ静岡県の港町は、全国有数の遠洋沖合漁業の基地として有名な場所だ。

近年は、水揚げ量や水揚げ金額で全国二位にもなった。

カツオやマグロの水揚げを主とした遠洋漁業が盛んで、海斗のお父さんはそこで漁師さんをしている。