「駿…あのね」
「まだ、何も言わないでほしい」


なんとか声を出した瞬間、冷静な駿の声が私の口の動きを止めた。


「急にこんなこと言って、夕海を困らせてしまうことはわかってた。ただ、わかっててほしかったんだ。夕海が海斗を想うように、俺もおまえを想ってたってこと」


真剣な眼差しに、心臓がバクバク鳴る。
私が海斗を想うように、駿は私を想ってくれていた?

それも、私たちが付き合うようになったあの頃よりも前からだと、さっき駿は言っていた。

だとしたら駿は…いつも私たちのそばにいながら、どんな想いで普通に振る舞ってくれてたんだろう。


「この三年、ぼろぼろになってた夕海を俺なりに支えてきたつもりだ。支えながら、ずっと考えてきた。これから先も、海斗を想い続けるおまえを黙って見ているのか?って。だとしたらもう、俺には夕海を支え続けるのは無理かもしれないって、今日はっきりと思ったんだ」


掠れるような切ない声に、胸がぎゅうっと、締め付けられる。
痛くて痛くて、たまらない。


「海斗がいなくなった、高校生だった頃の俺たちももう、十九歳だ。大人になっていくんだ。生きてる俺たちはずっと、これから先もずっと、どんどん歳を重ねていく」


でも、と駿は言う。
そして少しの間を空けて。


「海斗の時は、止まったままだ。どんどん大人になっていく夕海とは違う。変わっていく夕海のそばには、あいつはいない。だから…もう、前を向いていかないか」


そう言って、私に答えさせるタイミングを作った。