「夕海(ゆうみ)」
駿(しゅん)のその声で、閉じていた目がゆっくりと開いた。
「大丈夫か?」
心配そうにこちらを見下ろすその顔に小さく頷くと、私は徐ろに空を仰いだ。
頭上に広がるのは、薄水色とオレンジ色が儚げに混ぜ合わさった夕暮れ空。
あの日の空に、よく似ていた。
同じように目を閉じ手を合わせていた周囲の人たちがぽつりぽつりと歩き出していく中、脳裏に浮かんだのはあの日の記憶。
「あれから三年なんて…なんか早いね」
「本当、もう三年も経つんだな」
そっと肩に触れてきた詩織(しおり)と陽(よう)ちゃんの言葉に、まだ明るい夏空を見ながら呟いた。
「もう……なのかな」
胸の中に広がっていく複雑な感情。
まだ癒えぬ心の傷が疼くように、切なく痛んだ。
「えっ?」
「ううん、何でもない」
無理矢理笑顔を作った私は心の内を隠すように三人の前を先に歩き出した。
うだるような暑さが続く、七月の終わり。
生温い真夏の風が、あの頃よりも随分長くなった私の髪をふわりと揺らした。