彼女は眼花病を患う前から、膵臓ガンに侵されていたらしい。末期で手の施しようがなく、余命は半年だったそうだ。彼女はその宣告を受けたあと、かたくなに延命治療を拒んだという。そしてその三か月後、眼花病を発症した。

 「ガンの宣告をしたとき、彼女は声をあげてひとしきり泣いた。けれどしばらくするとふと泣き止んで、自分がガンだということは、誰にも言わないでください、と私に懇願したんだよ」

医者がそんな話をするのを、僕は動かなくなった彼女の傍らでぼんやり聞いていた。

 避けようのない死を前に、彼女が植えた花。その花はやっぱり、何よりも美しかった。足元に落ちていたその花を拾い上げて、そっと抱きしめる。

むせ返るような命の香りに、僕は声を殺して泣いた。