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歩けるようになったところで退院して、家に戻った。

久しぶりの制服に身を包んで、自分が令和の女子高生なんだなと、ため息を吐く。


こうしてる間にも、あの時代のあの島では状況がどんどん悪くなっていって、最後には望みのサルミに受け入れてもらえないって悲劇に向かってるのに。


あたしだけが、毎日あったかいお風呂に入って、ほかほかご飯におかず、蛇口をひねったら飲める水が出てくる場所でぬくぬくと生きてる。

山根さんじゃないけど、別に人を殺したわけじゃないけど、それでも。

あたしだけがこうして何不自由なく暮らしてることに、ものすごい罪悪感がある。

手元にはもうなにも残ってないから、時々、あれはやっぱり夢だったのかな、なんて思いそうになることもある。


でも、そんな時は髪を触る。

昇さんの刀で歪に剃られた髪。

とりあえず揃えよう、と言われたのを敢えてそのままにしてある。


これが、今のあたしが持ってるたったひとつの繋がりだから。


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学校に着いたら、玲奈がラグビー選手みたいに飛びついてきた。


「やよぉ!!心配したんだよ!もう!やっと会えたぁ!どしたのその髪?なんか検査とか?」
「あはは、まあそんなとこ。ごめんね、もう大丈夫だから」


玲奈の頭をサラリと撫でて、令和女子高生の女子力の高さを再確認。

あたしの頭はいま、そういうのじゃないからね。


「古賀、とうとう男になったのかと思ったぜ」
「転校生を紹介しまーす」
「僕、古賀生男です!」
「はぁ!何言ってんの!」
「ははは」


アホ男子にも久しぶりに会うとなんだか感動的だった。

でもいきなり「生男」なんて言われて、心臓が飛び出るかと思った。

弥生の生、で生男。

男子の考えることなんて75年経っても変わらないんだなぁ。


「町田もさ、やよが意識戻るまでの間ね、ずっと言ってたんだよ。あいつがこんな目に遭ってるのは俺のせいなんだ、って」
「え?」
「んもう、とにかくすっごい心配してたよ、なんか責任感じちゃってるみたいだし」


チラリと、晶を見る。

今日は車で送ってもらったから、朝は晶に会わなかったんだ。

こっちを向いた晶と、目が合った。

え、こっち来る?


「ホラ、王子様のおでまし」
「違うでしょ」
「弥生、ちょっといいか」
「あっ、うん」


真顔で、何だろう。

玲奈が変なこというから、なんか身構えてしまうよ……