不審に思いながら、ポールの上部まで飛ぶ。
 籠と見えた物は、犬を入れて持ち運ぶためのキャリーバッグだった。
 そのキャリーバッグが旗を掲揚するロープに結わえ付けられている。
「これ、あの男がやったんだよ、きっと」
 ロープとキャリーバッグの結び目を解きながら、陸くんが呟く。
 『あの男』は、私達の救助の様子を、ずっとスマホで撮影し続けている。

 キャリーバッグの中の犬を落とさぬよう、慎重に着地する。
『あの男』が、スマホの撮影をしたままで私たちに近づく。
「これ、あんたがやったんだろ」
 陸くんが、キャリバッグを男に差し出すと、中の犬は地面に飛び降りて、一目散に
逃げていった。
「ああ。そういう事にしないと、お前ら来ねえだろ」
 悪びれる事もなく、男が不遜な言葉を撒き散らす。

 一瞬で頭に血が上る。
「あなた、自分が何やってるか分かってるの!? 私達、真剣なんだよ! 他にも、
私達に助けを求めてる人たちが居たのに!」
 私は男に食って掛かる。
 けれど、男は我関せずで
「どーでも良いだろ、そんなの。それより、記念撮影お願いしまーす」
と、汚い言葉を吐き出した。