私達の通う高校は、市内を流れる菅谷《すがや》用水の畔に建っている。
 校門を出ると目の前を菅谷用水が流れていて、左は市街へ、右は田園地帯へ通じて
いる。私達は三人とも市内に住んでいるので、登下校では市街へ向かう道を使う。
 私達が、用水路沿いの道をじゃれ合うようにお喋りしながら歩いていると、奇妙な
物が目に入った。

「アレ何だろ」と独り言ちる。
 10メートル程先に、白いハトを左肩に乗せて歩いている男子生徒がいる。私達と
同じ学校の制服だ。良く見ると、その生徒は右の掌にパン屑を乗せ、餌としてハトに
与えている。
「どしたの?」
 私の様子に気づいたシーちゃんが声をかけて来た。
「あれ、あの人。肩にハトを止まらせてる」と指をさす。
「ん? あーっ、あれ。うちのクラスの陸くんだよ。佐藤陸くん」
「陸くん? そんな子、クラスに居たっけ?」
「すっごい影の薄い子だからね。あぁ、それと。あれ、ハトじゃない、カラスだよ」

 カラス? 白いのに?
 でも、そう言われれば、ハトより一回り大きい気がする。嘴も大きいし。
「仲間外れで虐められてるのを助けたら、懐かれたんだってさ」
「へー。珍しいね、見せて貰おうか?」
「止めなよ。あの子、スッゴい中二病だって話だよ」
「中二病?」
「『僕は、むかしは超能力が使えたんだ』とか言ってるみたいよ。まぁ、校舎の二階
から飛び降りたりして平気なんだから、ほんとに超能力者《エスパー》かもね」
「そんな事したの?」
「まあ、中二病だからね。変人なんだよ」