今も、私は教室の窓から空を見上げている。
「美幸は、夏休みが明けてから、空ばかり見てるよね。まるで空に恋してるみたい」
 今朝もシーちゃんに、からかわれた。
 そうなのだ。最近、私は空ばかりを見ている。
 晴れていても、曇っていても、雨が降っていても。
 私は空を眺めつづける、そこに何かの影を捜し求めて……。
 何を求めているのか、私自身がわからぬままに。

 服の上から、首にかけたお守りに触れる。
 このお守りは、トリフネが飛んだ日に、いつの間にか私の首にかけられていた。
 このお守りが何なのか、どうやって手に入れたのか。私は覚えていない。
 全ては、忘却の霧の向こうに消えた。
 でも、このお守りが私にとって掛け替えのない物であることを、私は知っている。
 どうして、そう思うのか。私自身にも、分からないのだけれど……。 

「ねえねえ、美幸。今日、転校生が来るらしいよ」
 すっかり口数の減った私のために、シーちゃんが新しい会話に誘ってくれる。
「アッキーの話だと、利発そうだけど、謎めいた雰囲気の子なんだって」
「へぇー、そうなんだ」と気のない返事をして、再び窓の向こうに関心を戻す。
 ハァー。と溜め息が聞こえる。
 ごめんね。シーちゃん。愛想が無くて……。

 始業のチャイムが鳴り、HRの先生が教室に入って来る。
「皆さん。今日から、このクラスに新しい仲間が加わる事になりました」
 先生が転校生の来訪を告げる。
 けれど、それが私の興味を引くことはない。相変わらず雲の形を追いつづける。
 転校生が教室に招じ入れられ、先生が紹介を始めたようだが耳に入らない。

 その時、視界の先の空に鳥が現れた。
 その鳥は上空で円を二回描くと、ツーっと降りてきて、校庭の木に停まった。
 なんだろう、あの白い鳥。
 鳩?
 にしては大きいような……。
 あっ、あれはカラスだ。白いカラスだ。
 んんん? どっかで見たような気がする。デジャヴ……かな?