市井の窓辺にて

「メイ。明かりを消して、ベランダにいらっしゃい」
「ママ。これからご飯じゃないの?」
「その前に大切な事をしなくては、いけないのよ。さぁ、いらっしゃい」
「はーい」
 娘がベランダに出て、母親の腰にしがみつく。
「わぁ、真っ暗だ。お星さまが良く見える」
「それは、よそのお家も明かりを消しているからよ。どのお家でも、これから大切な
事をするの」
「大切な事って?」
「もうすぐ、南の空を星が走り抜ける。そこに、世界を救った二人の若者がいるの。
その人達に感謝の祈りを捧げるのよ」
「それって誰なの? 偉い人? 神様?」
「ううん。私達と同じ、血の通った普通の人たち。だけど、他の人とは少しだけ違う
力があって、深い優しさと強い勇気を持っていた」
「その人達のために、何をお祈りすればいいの?」
「メイはどうすれば良いと思う?」
「うーんとね」
 娘は思案ののちに、母の耳元で何事かを囁く。
「とても良い考えね。だから、次は声にだして言いましょう」
「でも、口に出すのは恥ずかしい………」
「そんなことはないのよ。願いは口に出すことで、世の中を変える力になるの」

「あっ、星が動いてる」
 娘が南の空を指差す。
「さあ、一緒に祈りましょう」
 母娘は目を瞑り、胸の前で手をあわせる。
「二人の為に、世界が明日も平和でありますように」

 とある窓辺で、母と子が星空に祈りを捧げた。
 そして、次の窓辺でも、
 そして、また次の窓辺でも。