ロケット基部が煌き、煙道から巨大な排気の塊が噴射される。
 轟音と共にロケットがせり上がり、エンジンの炎が台地を蹴る。
 スローモーションのように細い機体が持ち上がり、発射台を離れる。

 嗚呼、ああ。あの人が、あの人が……行ってしまう。
 声なき声で叫ぶ。
「美幸! どうしたの? あなた、泣いてるじゃない」
 お母さんに言われ、指で頬を触れると濡れていた。
 ロケットは炎を吐きながら、上昇を続ける。噴煙が塔の如く、大地にそそり立って
いく。
 遥か上空で。機体は緩やかに弧を描いて水平飛行に移る。
 テレビ画像が望遠カメラに切り替わる。
 画像が大気の揺らぎでぼやける中、ロケット基部のブースターが分離し、花びらの
ように四方に広がって落下していく。
 私はその場に居た堪れなくなり、お母さんの呼ぶ声を後に、玄関を飛び出す。
 どこか、南の空が見える所へ……。
 自分でも何故そう思ったのか分からない。
 けれど、私の足は自然と近くの公園へと向かう。
 トリフネは南の空を通過する筈……。
 何故、その事を知っているのか分からない。
 でも、あの人は、そこに居るはずだ。